表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の少女の冒険  作者: 砂戸明
第1章 辺境の村人アリス
9/17

第9話 森の危機 4

男の叫び声を背中に聞きながら、アリスは一心不乱にかけた。

やはり子ども一人背負うといつもより早く走れない。これでは、村まで逃げ切れるかも分からない。


しばらくすると、追いかけてくる足音が聞こえる。

もう朝日が出始めており、逃げる姿は見つけやすいのだろう。左右に大きく曲がったり、藪に隠れるように走って逃げるが、遠くながらもついてくる複数の足音が聞こえる。


っふ、っふ、っふ

緊張しているのか、いつもより呼吸が乱れている。しかし、まだまだ走れる。


「え、え、なに、なに」

背負っていた子どもが目をさましたようだ。


「わ、わたし、村のアリスー。今、逃げて、るーー」

走りながらはしゃべりづらい。


「しっかり、つかまってーー」

その言葉を聞いたのか、子どもが自分の腕でしがみつくのを感じる。少し走りやすくなった。

山の下り坂を走り、谷の川に沿って走る。川近くは石が多くはしりづらい。


足音は、まだ付いてくる。

前方から滝の音が聞こえてくる。

走っている川の両側は、だんだんと岩の崖になっていった。


岩で作られた大きな曲がり角を越えると、ついに、真正面が滝のところに着いてしまった。これ以上前には進めない。

「あ、アリスお姉ちゃん」

「ふ、っふ、っふ」

滝を背にしながら、アリスは呼吸を整える。


やがて、曲がり角から、三人の盗賊たちが姿を現した。

「はー、はー、しつこく逃げやがって」

「なんだ、こいつは、村の人間か?」

それぞれ、剣をかまえて近づいてくる。


「おい! おとなしくしろよ!」

滝の音がうるさいため、盗賊は大きな声を上げる。


アリスは盗賊たちを見据える。夜も明けた、滝の音でよく音が聞こえない、しかし、匂いはつながっている。


じりじりと近づいてくる盗賊たちを見ながら、右手をあげる。


「なんだ?」


「あーーー!」

アリスは、右手の人差し指を、盗賊たちの後ろに向けて、大声をあげる。


「なんだ・・・、ぶほっ!!」

一番後ろにいた男が振り向いた直後、彼は熊の腕で吹っ飛ばされた。


「っふ、っふ、がぁぁーーーー!!!」

曲がり角から現れた熊は叫び声をあげた。


盗賊たちの残りの二人も振り向き、突然の熊の出現に一瞬動きが止まる。


「しっかりつかまって!」

その時、アリスは背負っている子どもに声をかけ、すぐさま横の崖に向かって走り出した。滝近くの崖は大人数人分の高さがあるほぼ直角の崖であったが、アリスはいつもより重い荷物を背負いながら、気合を入れて駆け上る。


くぉー!!


内心おもいっきり叫びながら、アリスは崖の上まで登り切った。

すぐさま背負っていた子どもを下ろし、崖の下の様子を見る。


すでに、盗賊の二人目が倒れているのが見えた。熊を見て驚いた瞬間、近づいた熊に殴られたのだろう。倒れた二人とも首や背中がねじ曲がり、もう息絶えているようだ。


残りの一人が剣をかまえて、熊に対峙している。

後ろは滝、右手は川で左手は崖となっており、逃げ場はないため必死に剣を振っている。


アリスは後ろを振り向き、捕まっていた子どもに息をひそめるように言う。


もう少し、もう少しだ・・・・


アリスは小刀を握りしめる。呼吸をととのえ、体に異常がないことを確認する。


大事なのは、位置と、速さと、覚悟だ・・・


崖の下で残った男が振った剣が熊に払われるのが見える。剣を無くした男が後ずさると、熊はとびかかり、その腕で男の体を押さえた後、その首にかみついた。


それを見た瞬間、アリスは崖から熊の頭に向けて飛び降りた。

男に噛みつくのに夢中になっている熊の両肩に後ろから乗っかるように足をかける。


「ぐぉ?」

熊が一瞬動きを止める。アリスは両手でしっかり小刀を逆手に握りしめ、思いっきり背中をそらせた後、力のかぎり熊の右目に小刀を突き刺した。


「ぐぎゃ●■▲ーーーー!」

熊の大きな叫び声を聞きながらも、アリスは小刀で目の奥底にさらに力を入れてかき回す。

やがて、脳まで届いた傷が致命傷となり、熊は前のめりで倒れこんだ。


っふ、っふ、っふー


っふ、っふ、っふー


大きな呼吸音が聞こえる。いや、これは自分の呼吸音だ。

アリスはそのままじっと体を動かさずに、体の興奮が治まるのをまった。


「は、は、手が、刀から離れないや・・」


硬直した手から何とか小刀を引きはがしてから、ゆっくりと熊の上から降りる。


熊の下を見ると、熊に噛まれた男はすでに絶命していた。

凄惨な光景とはうらはらに、森の中に朝日が差し込み、滝の音を聞いていると、いつもと変わらない森にいるようにアリスは感じた。


「まずは、子どもを村に返さないと・・・」


崖の上から、恐々とこちらを除いている子どもを見ながら、アリスはこれからのことを考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ