第6話 森の危機 1
その日、アリスはいつもより早めに起きた。
今日は市場に行く日だが、出かける前に、熊や狼が嫌がる匂いの薬を村近くの森に撒くことにした。森の広さに対して薬の量はわずかだろうが、気休め程度でもないよりはいいだろうと薬をまく。
薬をまいた後は村の集合場所に行き、いつもと同じように村人数名と共に荷馬車で市場へ向けて出発する。夏が近いのか、昼頃にはかなり気温が高くなっていた。くもり空のため湿気が多く、じめっとした汗をかいたアリスはやや不快な表情をうかべる。
う~、今日はローブが暑い!
アリスはローブを深くかぶっているため、かなり熱がこもりやすい状態だった。そのうえ口元を隠したりするととんでもない暑さになるため、さすがに夏はやや顔の露出度があがるのもやむをえないと考えていた。
そもそも、アリスは祖母の言いつけで顔をなるべくさらさないように言われているが、その理由をきちんと聞いたことが無かった。聞く前に祖母は亡くなってしまったが、自分でいろいろ理由を考えていた。
他の人と髪の色や目の色が違うからかな~
村の人は髪の色が茶か赤茶が多いが、アリスの髪はもっと色が薄く、日の光があたるキラキラとかなり目立つ色だった。目の色も、他の人は茶や黒っぽい茶が多いのだが、アリスはもっと薄い色だと言われている。今は髪を茶色っぽく見えるように着色しており目立たなくしている。それでも、それだけで顔を隠す理由があるのか疑問に思っていた。
ひょっとして、すごい偉い人の隠し子だとか?
今の住んでいる村しかしらないアリスだが、親子で顔が似るのは知っている。例えば、ここら辺の村を束ねている領主の隠し子だったりして、その領主にそっくりだったりするとか?などと妄想したこともあるが、確かめるすべもない。いずれ、信用できる人にきちんと相談しようと思っているが、村長などに相談する踏ん切りがつかないうちに、日々が過ぎている状態だった。
ぼんやりと考え事をしているうちに市場についた。
いつものように上昇志向の強い商人のウルクさんに高く売れると言われている薬草などを売り、村で不足がちな薬草や薬、あとは少々の甘味を買う。同行した村の人もいつもの売買や交換をすませたようで、昼過ぎには帰路に着くことが出来た。
特に問題なく村に着くと、いつもと変わった雰囲気だった。村の広場前に数名の大人たちが集まっており、やや不安な顔をして何事か話していた。村長も気難しい顔をして腕組をしていたが、荷馬車が市場から戻ってくるのに気づくと、こちらに話しかけてきた。
「おー、無事についたか。ご苦労だったな。問題なかったか? そうか、よかった」
「村長さん、皆が集まっているが、何かあったんで?」
市場から戻ってきた村人が聞く。
「実はな、森の木の実など採りにいった子供が一人戻らない。今、村周辺で探しているところだ」
「え?まだ日も暮れていないし、おおげさじゃないですかね?」
「いやいや、森に入るから、いつもどおり4~5人単位でなるべく遠くにいかないように村周辺で採集をしていたそうだが、いつのまにか一人見当たらなくなっていたらしい」
「あー、そりゃ大変だ、わしらも荷馬車の荷物整理したら探すの手伝いますよ」
「すまんな、明るいうちに何とか見つけねばな・・・」
どうやら、子どもが一人見当たらなくなったらしいです。
今の村周辺で行方不明とは、少し不安な気持ちになります。
私も荷物を家に置いたら、村周辺の森を探しましょうか・・・
と思っていたところ、村長に先んじて言われてしまう。
「アリス、こんな事態なんで、村の子どもたちは家にいてもらっている。これ以上、行方知れずが増えても困るからな。お前も、家に居て一人で出かけないように。不安になったらうちに来い。」
「・・・・はい、分かりました。」
あーー、先に村長に言われてしまった
でも、森の中だったら私のほうが探すのは得意だと思う・・・
もし日が暮れても見つからないようだったらこっそり探そうかな・・・
アリスはとりあえず村長の言うことに従って家に向かうことにした。
結局、日暮れまでにいなくなった子どもは見つからず、村では明日の朝から改めて探すことになった。