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辺境の少女の冒険  作者: 砂戸明
第1章 辺境の村人アリス
4/17

第4話 市場へ行く

今日は朝から晴れている。

だんだん暑くなっているが、まだ夏ともいえないような時期である。

今日は、荷馬車に乗り、村人数名といっしょに市場に行く日だった。


アリスの村から東に二刻ほど進めば、広く整地された場所があり、そこで定期的に様々な産物を交換する市場が開かれる。村からは麦、芋などの農産物、山でとれた木の実、干し肉など持っていき、代わりに衣類や鉄工具などを手に入れる。


アリスは薬師であり、様々な薬草を取り扱う。そのため、村では取れないものを市場で手に入れたり、または貴重な薬草が山で取れたときはそれを市場に流したりする。

祖母が元気なときは祖母が行っていたが、今はアリスが自分でやらなければならない。そのような事情が分かっているからか、村長は市場が開かれるときはアリスに伝え、アリスもなるべく市場に行くのに同行するようにしている。


市場に行く村人の集合場所に行く。

「それじゃー、いこうか」

「「おう!」」


「アリスもよろしくな!」

「・・・よろしくお願いします」


「今日はこの隙間だな!」

「・・・・・」

荷馬車の荷台には村の農産物などが詰め込まれ、その隙間にアリスは乗せてもらう。

市場に向かう村人は3名ほどであり、荷馬車といっしょに歩いていく。


アリスは祖母の教えどおり人前ではゆっくりと歩くようにしている。

ゆっくりとしか歩けないと思っている村人は荷馬車に乗せてくれるのだが、少し申し訳ない気持ちになる。


いつまでもこのままじゃ駄目なんだろうな・・・


荷馬車でゆられながらアリスはぼんやりと考えている。


そもそも、普通に村内で暮らすうえでも、祖母の教えを続けていくのは難しいのではないだろうか。

アリスは今年の夏で10歳になるが、自由にしていいと言われた16歳までの6年間、なるべく顔を隠し、人前ではのろのろと歩き、ぼんやりとしゃべり、出来ることを隠し、やりたいことを我慢する生活を続けることが出来るのだろうか?

祖母の教えは守りたいが、それはアリスにとって果たして良い生活と言えるのだろうか?


いずれ、村を出てゆくことになるんじゃないだろうか。


祖母が亡くなってしばらく経ち落ち着いたからか、最近、アリスは漠然と将来のことを考えるようになった。


今の村は20年ほど前、村長含めた数十名の開拓民たちが開いた村だと聞いたことがある。その後の少しずつ人が増えていく中、アリスの祖母は8年ほど前に薬師として住み着いた、どちらかというと新参の側に入る。特に親戚や知り合いがいたというわけでもないらしく、村長が辺境の村に来てくれる薬師を探していたところ、たまたま来れたのが祖母とまだ小さいアリスだったとのこと。


村長の娘らにある程度の薬師の知識を教えたら、アリスは必ずしも村にいる必要が無くなるかもしれない。村長たちがアリスを追い出そうとしているわけでもないし、村人たちから何か悪意を持たれているというわけでもない。

ただ、祖母の教えや祖母の遺産について考えると、このまま村に居続けるということがひどく不釣り合いなようにアリスには感じられた。


昼前には市場についた。

広場に、100人を超える人々が集まっていた。近隣の村から来る人もいれば、山地に住む狩人らしきもの、都から来たと思われる大仰な商人の集団も見える。ゴザを敷いて交換したいものを並べる者もいれば、木などで簡易な小屋を作っている者もいる。挨拶や交渉の声があちこちから聞こえ、早くも騒がしい状態だった。


「おし、じゃあここに荷馬車を置いて交代で市場を周っていくか」


アリスはそっと荷台から降りてもってきた袋の中身を確認する。


「アリスはやっぱり一人で回るのか?」

 こく、こく

 

「まあ、お前さんも立派な薬師だしな、何か問題あったら大声だすなり、ここに来るなりしてくれ」

 こく

「一刻半もあればこっちの仕事は終わると思うんで、戻ってくれ。日暮れ前に帰りたいしな」

「・・・・分かりました」


アリスは、祖母が元気なときに市場には何度かお手伝いとして来ており、その時、祖母の知り合いの商人を何人か紹介してもらっている。そのため、祖母が亡くなった後でも、アリス一人で何とか薬師としての取引をすることができている。


ローブとぼろ布で顔をなるべく隠しながら、まずは大手の商人の一団がいるところにいく。

目当ては、手持ちぶさたで立っている若い商人だ。


「・・・・おひさしぶりです・・・・ウルクさん」

「おお、アリスちゃん、おひさしぶり!」


「今日は何かいいものはあるかね?」

手をすりすりしながら、期待を込めて聞いてくる。


「・・・・今日は、これ」

手に持っている袋の中身を、なるべく他の商人に見えないように、ウルクに見せる。


「・・・・・・の薬草を乾燥したものです」

なるべく小さい声で伝える。


ウルクは大手商人の三男坊だが、あまり重要な仕事を任せてもらっていなかった。その代わり、空いた時間を使って少量でも高く売れる物を熱心に探しており、必要とあらば自分の裁量で購入していた。


「お、おぅーー、うん、うん。いいね、いいね。」

声を抑えているが、顔はかなりの笑顔だった。


アリスはウルクと市場で何度か取引していくうちに、特に高く売れる薬草をいくつか聞き出していた。

そして、アリスがよく行く山中奥深くは、かなりの貴重な薬草の宝庫であることが分かっている。今回も、その中で特に貴重とされる春の薬草を持ってきている。


「じゃあ、こっちこっち」

二人で目立たない場所に移動して値段を交渉する。アリスは、提示された価格に納得した後、乾燥した薬草を袋ごと渡し、ウルクからお金が入った袋を受け取る。


「今後とも、よろしく」

「・・・・よろしく」


アリスは、村は物々交換が基本であるが、このような市場で物を買ったりするなど、やがて必要になるかもとお金を貯めるようにしている。ウルクのほうは、個人取引で稼いだ分を貯めて将来の独立資金とするつもりとのことだった。

アリスとしては、高く売りたい薬草は山ほどあるので、ぜひ頑張ってほしいという気持ちだった。


ウルクと取引を終えた後、市場をまわり村では不足がちな薬草などを買っていく。

一刻もすれば必要な分は手に入れたため、村の荷馬車のところに戻る。


「アリス、そっちも終わったか?」

「・・・・はい」


「こっちもちょうど終わったところだし、村に戻るか」


「帰りはこの隙間だな!」

「・・・・・」


アリスは無言でうなづき、衣類などでいっぱいとなった荷馬車の隙間に座る。

今日は日が暮れる前に村に帰れそうだ。


ゆったり荷馬車にゆられながら、とりとめのないことを考えていく。


そういえば、なんだっけ

今日くるとき、何か、悩んでいたような?

まあ、いっかー


アリスは、あまり深く考えない性格だった。


無事に村に着いた後、アリスは家で夕食を取る。

今日は、市場で買った甘いお菓子も食べて思わず笑顔になる。


それにしても、今日は高く売れたなー


村に住む限りお金を使う場面は少ないのだが、自分が採取した薬草が高く売れたことは、自分の行動が高く評価されたように思えて、アリスにとって嬉しい出来事だった。


夕食後、寝床に入ったアリスはゆっくりと眠りにつく。


このお金は、今度、山の小屋に行くとき持っていかないと・・・


また明日も頑張るよ、おばあちゃん・・・

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