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辺境の少女の冒険  作者: 砂戸明
第1章 辺境の村人アリス
3/17

第3話 雨の日

今日は朝から雨が降っている。


雨の日は、家の中で作業をすることにしている。

山中で取った薬草を煮たり、すり潰したり、粉上にして丸薬にしたり、加工する。手間をかけると保存期間が延びたり、薬効成分が高まる。

手間をかけるほどいい薬が出来るんだよ、という祖母の言葉を思い出す。


雨がしとしとと降っている。

薬草の加工が一段落し、薬草の在庫が十分になったことを確認したが、まだ昼までは時間があったため、今度は紙と彩色道具を準備する。


祖母からは、薬効や加工方法などが絵付きでまとめられた薬草の書物を引き継いでいた。祖母お手製の大切な形見の本である。

その本を参考に、実際の村周辺の薬草の状況なども踏まえて、アリスは独自に薬草の説明書を時間を見て作っていた。


アリスは、過去に見た視覚情報を精密に思い出せることが出来る。

お手製の筆を使い、最近村周辺で見た薬草を絵にする。絵は、描けば描くほど上手になる気がする。

薬草の絵を描いた後は、その横に薬効や加工方法、処方などの説明を村人が読める文字で加える。

集中して作業すると、昼までに新たな説明書を3枚ほど作ることが出来た。


昼食を取ってすぐ後、予定どおりの来客があった。

「アリスちゃん、今日もよろしくね。」

15歳ほどになる村長の娘だった。


「・・・・よろしく・・・・」

室内でも頭からローブをかぶり、なるべく顔を見せないようにしながら挨拶する。

そして、事前に準備していた薬草の説明書を見せながら、実際に薬草の現物を見せたり、その加工をいっしょに作業していく。


祖母が亡くなった後、アリスは薬師の後継者として認められたが、村長は10歳に満たない少女のみに頼ることを不安に思っていた。

村長から、出来れば他の村人に薬草の知識を共有していほしいと要望があったところ、アリスとしても手間が減ることは大歓迎であったたため、折をみてこのような薬草知識の伝達が行われるようになった。


「むー、なかなか難しいね。」

慣れてない作業からか、村長の娘はすぐには覚えられないようだ。

アリスは、丁寧にゆっくりと作業を何度もやって見せて教えるようにしている。


どうも他の人は、一度見たり聞いたりしただけは作業を覚えられないようだ。

数種類の薬草の加工方法を教えたところで、日もだいぶ傾いてきた。


「ありがとう、アリスちゃん! またよろしくね」

お礼にいくらかの野菜を渡し、彼女は帰っていった。


いずれ、村周辺の薬草の場所を教えたり、いっしょに山中に入って薬草を実際に採っていく必要があるだろう。しかし、他の村人では決して行かないだろう山奥にある希少な薬草については、村周辺で栽培できるか、市場で手に入れられるか確認しなければならない。


アリスとしては、自分が山中深く入って行動していることや、他の村人が決してたどりつけないような山奥に倉庫として使っている小屋があることなどは他の村人に教えるつもりはなかった。うすうす、この村では手の余ることだろうと感じていたこともある。


お礼にいただいた野菜を使った夕食を取った後、寝床につく。

祖母の言葉を思い出す。


” 決して、他の人が自分と同じようにできると思ってはいけない


” 他の人よりちょっと出来ないくらいで行動するんだ


” 普通の人は、昼に星が見えたり、遠く離れた人の話し声を聞いたりすることはできないんだよ


じゃあ、どうして、私は・・・・


やわらかい雨が降っている中、アリスの意識は落ちていった。


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