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辺境の少女の冒険  作者: 砂戸明
第1章 辺境の村人アリス
2/17

第2話 山中に出かける

夜明けの一刻前、アリスは目覚めた。

今日は遠出をする予定のため、早めに起きて昼食の準備をする。

木の実などをこまかくすりつぶして団子を作る。竹筒に水を入れ、貴重な塩もいくらか準備する。

その後、朝食として山菜と芋を入れたスープを作り、ゆっくりかんで食べる。


いつものように、ざんばらな髪の毛のうえからローブをかぶり、口元をぼろ布で隠しながら家の外にでる。

荷物を背負い、のそのそと前かがみの恰好で村長の家に向かう。


「おー、アリスおはよう。そうか、今日は薬草取りの日か?」

「・・・・・」

こくんと無言でうなづく。


「・・・・だがな、一人だと少し心配だな。何ならば、うちの若い者も同行してやってってもいいのだが・・」

村長は少し悩まし気に提案するが、ふるふると頭を振られる。

「そうか、山の中は慣れているとは思うが、くれぐれも気を付けるんだぞ。」

「・・・・」


村長との会話を終え、のそのそと村の外側へ向かう。

村はこの国の北西の端に位置しており、西側と北側は広大な山地となっている。比較的低い山々が連なった後、はるか先には空に届かんとばかりの大山脈が見える場所である。


アリスは村を出た後、山地に分け入り、半刻ほど歩き続ける。

村人の気配も遠くなってしばらくした後、視界が開けた場所にでる。

春の気配も色濃く、山々は緑にあふれていた。


周りに人がいないことを確認した後、アリスはおもむろにローブから頭を出した。

ざんばらな髪の毛をひもで束ねて後ろにたらし、口もとのぼろ布もとる。

「うーーーん」

思いっきり背伸びをした後、手と足をぐるんぐるんまわす。


ひさしぶりの外だ!


きらきらとした金の目を輝かして、周りの山々を眺める。

春になったからか、あちこちで花が咲いているのが見える。

天気も良好、薄い雲があるだけの晴天だ。


ぐるっと視界を見回し、今回向かう方向を確認する。

何といっても、日帰りの必要があるため、手早く、安全に行動しなければ。

近くの山のあちこちで小動物の気配を感じるが、ざっとみたかぎり、特に問題はなさそうだ。

「よーし、いくぞ」


気合を入れて、アリスは走り出した。

もともと山歩きしやすい恰好できたことから、多少走ったところで支障はない。

うきうきした気分で、アリスは道なき道を走り続ける。

深い藪などは事前に回避し、通り抜けられる木々の隙間を大人の全力疾走ほどの速さで駆けてゆく。


もともとアリスは走るのが、というより、動き回るのが大好きだ。

祖母から薬草の作り方などを聞いて頭を使うのも好きなのだが、体を動かすのも得意である。

もともと早熟なアリスは、5歳頃から祖母の山の散策に付き合っており、そのたびに大いに動き回ったものである。

あまりにも走り回るからか、いつからか村の中ではゆっくり歩くように言われ、祖母が亡くなる直前には、なぜか人前で走ること自体が禁止されてしまった。

同時に顔もなるべく隠すように言われ、不思議に思いながらも、祖母の遺言として今も行動に移している。


そんな制約も、他人の目が無い奥深い山中ではとっぱらわれる。

思う存分、今日の予定地に向けてアリスは飛び跳ねるように突き進んでいった。

一刻も走ると、他の村人は決してこないような山中についていた。

もう半刻ほどで目的地に着く。やや名残惜しい気分になりながら、少し速さを抑えて進むことにする。


ん?


山の稜線を歩いていると、ちょっと気になることを感じたので立ち止まる。

アリスの行き先より右手の方向、二つほど山を越えた先にやや大きな気配感じる。

「距離は、5リーグくらい? この大きさは熊かな~ 」

あちらはこちらに気づいていないようだ。

まあ、熊と喧嘩をするつもりはないため、気にせず進むことにした。


そしてちょっと歩くと、目的地についた。

川近くにあるやや山の斜面になったところに、洞穴と簡易な小屋が立っている場所である。

小屋は、祖母の指示のもと、何年かかけて作ったものであり、その横の洞穴は扉を付け、貯蔵庫として使っている。

山深い山中であるが、決して他人に見つからないよう、周りが藪でかこまれている。

ひさびさの小屋の中に入って異常がないか確認する。

その後、空気の入れ替えと軽く掃除をした後、まだ昼前ではあるが、昼食を食べることにする。

「ん~~~!!」

昼食後、小屋の前の草地で寝っ転がる

思いっきり走ったからか、すごく充実した気分であった。


「ずーっと、ここに住めればいいのに」

小屋のそばには、簡単な畑も作っており、木の実や山菜、狩りなどを頑張れば、アリスでも一人で住んでいけそうではある。

だが、祖母の言うことは守らなければならない。

「16歳になったら、好きにしていいよっていってもね・・・」


「あと6年以上もあるじゃん!!!」

アリスは、先の長さにちょっとうんざりもしていた。


その後、貯蔵庫の中身を確認した後、薬のもととなるいくつかの野草を採取する。

昼過ぎにはやるべきことも終えたため、さっそく帰路に着くことにした。

「あんまり遅いと心配させるし・・・」

ちょっと名残惜しいが、また数日後には来ればよいと自分を納得させ、来た時以上に思いっきり走って村に向かう。

速度が出たまま谷に出てしまったときは、思わず飛び跳ねて谷の向かい側につくものの、特に止まらず走っていく。調子がいいときは木の枝から枝まで飛んで、空中散歩の気分で進んでいく。


やっぱり、体を思いっきり動かすのは、気持ちいいー


夢中になって走っていたが、村に着く直前であわてて止まる。

急いで髪をざんばらに戻してローブを頭からかぶり、鼻と口元をぼろ布で隠す。


うん、一番近い村人まで半リーグほど。

多分、見られてない、大丈夫!


のそのそと村に向かって歩きながら、少し調子に乗っていたことを反省する。

日が高いうちに村に帰りつき、村長に無事に戻ったことをどもりながら報告する。


夕食後、いつものように、祖母の生前の教えを思い出しながら、ゆっくり眠りにつく。


” いいかい、アリスや


” いろいろ教えてはいるんだが、


” お前は少しうっかりやだから、心配だね・・・・


うーん・・・

おばあちゃん・・・

気を付けるよーーー


少し申し訳ない気分になる夢を見た気がした。


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