5話
翌日も、ミシアさんに断りを入れて湖を作りに行った。
「今日こそは湖を完成させて、お魚を泳がせる!」
私は昨夜の歓迎会で、みんなにお返しをしたいと必死であった。
湖につき早速、水を注ぐ作業を始める。
「水魔法!」
陽が真上に来る頃に、やっと湖ができあがった。
「やったぁ~!」
私は大の字に地面に寝転がった。清々しい達成感を味わう。そしてわくわくしつつ、作業を再開。
次はいよいよお魚を……あれ?
スキル創造で、魚の創造スキルを作ろうとしても作れない。じゃあ、生物の創造スキル? そう思い、名称などを変えて色々試すも、どうやら魚どころか生命を誕生させることができないようだ。
(う~ん?)
私は悩んだ。その結果、精霊創造スキルを作り、精霊がお魚を作ってくれることを期待した。
不安気にスキルを作成してみたものの、精霊創造スキルは制作できた。試しに水の精霊を作ってみる。可愛い女の子の姿だった。
その子は湖の上に立っていて、ぱちりと目を開く。
「こんにちは、女神様」
女神様と言われて、なんか気恥ずかしい反面、自分が偉くなった気分になる。
「こんにちは、え~っと、お名前はなにちゃん?」
「精霊に名前なんてありませんよ」
名前ないのか……私は名前を付けてあげたくて考える。
「ウル! 貴女の名前はウルちゃん!」
私がウルちゃんと呼んだ幼女は、嬉しそうに笑顔になる。すると突然ウルちゃんの足元の水が舞い上がり、ウルちゃんの身体を包み込む。顔に飛んで来る水飛沫を手で守る。
「な、なに!? ウルちゃん、どうしたの?」
しばらくすると、その水はおさまった。ウルちゃんを見ると、幼女から少女という成長をしていた。何がどうなった?
「名前をありがとうございます。女神様」
「ウルちゃんが大きくなった! なにごと?」
「名前をつけて頂いたので、成長したのです。いわゆるネームドという存在になりました」
「ネームド?」
分からない言葉が出てきた。ファンタジー世界特有の言葉?
「はい、精霊や魔物に名前を付けると、ネームドと呼ばれるようになります。ネームドは名前がない精霊や魔物よりも、能力が高くなります」
「おお!」
私は能力が高くなるということに、目を輝かせた。これならお魚を作ってくれるかもしれない。
そこで私はお願いしてみた。
「ねえ、ウルちゃん。この湖にお魚とかを住ませたいんだけど、食べたりするために。お魚作れる?」
「作れませんけど、事情は分かりました。では、この湖に魚を住まわせますね」
そう言うと、ウルちゃんは両手を天にかざした。魚を作れないのにどうやるの?
疑問に思っていると、モクモクと空の黒い雲が、他の空からやってきた別の黒い雲と湖の上でくっつき、突然の大雨が降り出した。
私はずぶ濡れになりつつ、何が起きたのかと狼狽える。
「な、なに? 急に大雨?」
突然私の頭に何かがバチンと当たる。私はその衝撃による痛みを手で抑えつつ、そのまま両手で頭を守り、その場にしゃがみこんだ。
しゃがんだまま、その頭に当たった物体を見つめる。目の前でお魚がぴちぴちと動いている。
不可解な出来事に、ウルちゃんに問いかける。
「ウルちゃん? ウルちゃん? これなにが起きてるの?」
ウルちゃんに聞こうにも、声より大雨の音の方が大きくて、ウルちゃんまで届いていないようだ。
しばらくしたら、大雨はやんだ。
私はずぶ濡れになりつつ立ち上がる。髪や服からポタポタと水が滴り落ちる。
「あの~、ウルちゃんなにしたの?」
「魚の引っ越しです。よその湖から少し分けて頂きました」
超常現象に戸惑う。まさか魚が空から降ってくるとは……。
「後の管理は任せて下さい」
「うん、よく分かんないけど、今後はこの湖をよろしくね」
私はずぶ濡れの身体のまま、くしゃみをしつつ孤児院へと帰って行った。