表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界!? 神!? なんで!?  作者: 藤谷 葵
一巻(初稿版)
5/181

3話

 村に戻ろうとして歩いていると、そこでふと自分のミスに気付いた。


「あ~寝床の確保してない!」


 先ほどの村に戻った所で、厄介払いされそうである。だが、他に方法が浮かばない。

 黒雲のせいで、暗くなるのが早い。

 うんうんと唸りつつ、仕方なく先ほどの村に戻ることにした。

 村に辿り着くと、日中に比べて人は少なくなった。陽が暮れてから村に向かったので、陽はとっぷりと暮れていた。

 人気のない村の中を、様子を見つつこそこそと歩き回る。時折り小枝をパキッと踏みつけて、泥棒と思われないかとドキドキした。

 木戸の隙間から、わずかに洩れる明かりが、数軒しかない。

 まあこんなに暗くては、やることがなくて寝るのが早くても何の不思議もない。

 その数件を回って交渉していくしかない。と言っても交渉材料は何もない。

 村は食べ物に困っていそうだし、湖が完成していたら、お魚を交渉材料にできたんだろうけど……。

 ダメ元で泊めてもらえないかと、交渉してみた。

 案の定、次々と断られた。段々と不安になっていく。

 最後の一軒。私はごくりと唾を飲み込む。ここを断られたら野宿が確定する。恐る恐るドアをノックする。するとボロボロになった修道服を纏った女性が出てきた。


「こんな夜分に、なんでしょうか?」


 その女性の顔色を窺うと、今までの人のように嫌悪したような表情はない。私は勇気を振り絞ってお願いをする。


「あ、あの、ここに泊めて頂けないでしょうか?」

「この村では見たことないけど、旅の人?」

「え、ええ、まあそんな感じです」

「何もない所ですがどうぞ」


 女性は優しく微笑みかけて、中に入れてくれた。

 中に入りほっとしたのも束の間、視線を感じるので辺りを見渡すと、子供が何人かいる。あれ? 子沢山の人?

 そんな思考を読まれたかのように、女性は悲しそうな表情で説明をしてくれた。


「ここは元々教会でして、孤児の面倒を見ているのですが、この子たちにはひもじい想いをさせてしまってます」


 そこまで話すと、思い出したかのように女性が聞いてきた。


「あ、お食事は?」


 その言葉を聞いただけで、お腹がぐぅーっと鳴った。お腹で返事をしてしまって恥ずかしい。


「ふふ、安物のパンが少ししかありませんが、どうぞ」


 そう言うと、女性はパンを一つ差し出してくれた。私はありがたくそれを手にして、かぶりつく。

 この世界に来て、初めての食事。そして現実世界も含めて約五年ぶりの食事。だが、お世辞にも美味しいとは言えない。硬くてぱさぱさに乾燥している。小麦粉を練って焼いただけのようなパンである。

 私はがっついて食べたので、盛大にむせた。


「ぐっ、ごほごほ」


 慌てて女性が、木のコップに入った水を差し出してくれた。私は奪うように取り上げて、お水で流し込んだ。そしてパンも食べ終わる。


「ふ~、ご馳走様でした」


 まだ食べれる。いやむしろ食べたい。だが、贅沢を言える立場ではないので我慢する。孤児たちの視線も痛いしね。本来なら孤児が食べる分だったのだから……。


「お粗末様でした。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はミシア」


 この世界は名前しかないのかな? 苗字は貴族とか偉い人だけ? それならば私も、とりあえず名前だけ名乗っておこう。


「私の名前はサオリ。ありがとうございます」


 ミシアさんは優しい目で微笑む。


「サオリさんですね。えーっと、寝る場所をどうしましょうかね?」


 ミシアさんが視線を向けた方に、私も釣られて見る。そこには粗末な布団が並べられて、子供たちがワイワイと戯れ合いながら、雑魚寝の準備をしているようだ。とてもじゃないが場所はない。

 苦笑しつつ、ミシアさんが提案してくれる。

 

「狭いですけど、私と一緒の布団でいいですか?」

「は、はい」


 なんか寝床がない所に無理やり来た感じで、申し訳なさを感じる。だが、ミシアさんの表情を窺うと、迷惑そうな顔を一切していない。教会で孤児の面倒をみているだけあって、優しい人だ。私はお言葉に甘えてミシアさんと同じ布団に潜り込む。


「じゃあ、そろそろ蝋燭の灯を消しますね」


 そう言うと、ミシアさんは、ランプの中の蝋燭にふっと息をかけて消した。

 暗闇の中、ミシアさんの体温を感じる。懐かしい温もりを感じる。植物人間になってしまってからは、何も感じなくなってしまっていたが、それ以前はよくお母さんとお父さんが抱き締めてくれていた。昔のことを思い出し、突然、涙が出てきてすすり泣いた。

 そんな私をミシアさんは抱き締めてくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ