12話
ノックの音に私は反応する。
「どうぞ~」
木のドアは、キィ~と音を立てて開く。そこにはシャーリーさんが立っていた。手には何かをいっぱい持っている。
「貴女たちの仕事の説明に来ました」
そういうとシャーリーさんは、私たちに持っているものを手渡してきた。その後、シャーリーさんは、背筋をピンとして立ったまま、説明を始めた。
私は渡されたものを広げて見つめる。ピンクの花柄の服と、黒の喪服のような服。それと白いエプロン。二着ずつある。私は疑問に思い答える。
「なんです? これ」
「貴女たちの仕事着です。午前はピンクのメイド服で、午後は黒のメイド服を着なさい」
メイド服? 黒のメイド服は元の世界でもみたことあるけど、ピンクで花柄のメイド服って、何かおかしくない?
私が考えていると、シャーリーさんは表情を変えずに、淡々と説明を続ける。
「まず、貴女たちは起きたら、使用人棟の掃除をして下さい」
「この部屋の?」
「いえ、他の使用人たちが使っている部屋以外全部です。通路も含めて」
私とシャーリーさんの会話に、メイちゃんが驚きつつ答える。
「全部!?」
「そうです。全部です。それが午前の仕事です」
午前の仕事……かなりハードじゃないか? 外観からして、使用人棟も三階建てくらいで、一階辺りも広い。だが、驚くのはまだこれからだった。
「午前の仕事が終わったら、昼の休憩です。ジェームス様が食事を終え、他の使用人たちが食事を終えた後に、貴女たちの昼食となります。食事が終わったら、午後の仕事として、本邸の掃除をしてもらいます」
「本邸の掃除も!?」
今度は私が驚く。シャーリーさんは怪訝そうな顔をする。
「何を当たり前のことを言っているのですか。本邸の掃除こそ、使用人棟の掃除よりも大事なことでしょうが」
最低ランクのメイドの仕事だけあって、仕事量が多いのか? いや、きっと他にもいるはずだ。
「あの~、もちろん他のメイドさんも一緒に掃除をするんですよね?」
「何を言っているのです! 掃除はスカラリーメイドの仕事です。他のメイドはキッチンや給仕の仕事をしています」
「え? じゃあ、今まで掃除はどうしていたの?」
「スカラリーメイドだった者の地位が上がり、他の仕事についたのです。スカラリーメイドがいなくなったから、今回、スカラリーメイドの募集をしたのです」
この世界の常識を知らないので、私はメイちゃんの方に顔を向けて、様子を窺う。だが、メイちゃんも衝撃的だったのか、ぽかんとしている。さらに説明が続く。
「貴女たちの言葉遣いや振る舞い。領主様のメイドとして、相応しくありません。本邸の仕事が終わった後に、マナーの勉強をしてもらいます」
勉強! なんか嫌だな~。でも、確かに領主様の顔に泥を塗らないためにも必要なことかもしれない。私が女神として話すことがある場合、庶民的な話し方だと、威厳がなさそうだしね。
「一日の用事が終わったら、メイド服は、リネン室の洗濯籠に入れなさい。ランドリーメイドが洗濯をします。夕食も貴女たちは最後です」
「「は~い」」
返事をしてから、気づく。あれ? 昼食はあるのに、朝食がない?
「あ、あの……朝食は?」
「食事は階級が上の人から食べていき、残りが下賜されます。なので、朝食は領主様や他のメイドたちが食事を終えた後になるので、貴女たちの食事は昼ぐらいになるでしょう。ちなみに昼食の下賜されたものが、貴女たちの夕食となります」
呆然とする。下賜? 残り物ってことだよね? 残らなかった場合は?
質問をしたいが、今まで読んだことのある物語とかでは、そういう話も出てきた。この世界もそういう制度なのであろう。そもそもこの世界は食糧事情が悪いしね。フードロス禁止! という感じなのであろう。
「では、私は自分の業務に戻りますから、明日から頼みましたよ」
シャーリーさんは説明を終えたようだ。メイちゃんがそれに元気よく返事をする。私は真逆に沈んだ返事。
「はい!」
「……はい」
その返事を聞いて、満足したかのように、シャーリーさんは部屋を出て行った。
いつも読んで頂きありがとうございます。
メイドの服が午前はピンクの花柄で、午後は黒。
これは資料を読んだら、現実だったそうです。
作者も知らなかった話。読者さんも知らない人は多いのではないでしょうか?
メイドさんというと、メイド喫茶が頭に浮かびます。大抵、黒い服のイメージではないでしょうか?
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