EP7 革命
王都のはずれにある噴水広場。平生ならば家族や恋人たちにとっての憩いの場である。しかし、今夜ここにひしめくのは武装した男たちであった。セプトリス国軍の証である白銀の甲冑に身を包む兵士達。鉄製の簡素な防具を纏い、棍棒など思い思いの武器を手に取った市民達。オル・ハミュラの民族衣装の下で目を光らせる砂漠の民。身分・民族の垣根を超えた混成部隊であった。それ故に、お互いに警戒するような視線を送っていた。そこへ、石畳を蹴る蹄の音が鳴り響いた。男たちが視線を上げる。迫りくる者たちの姿を見るために。獅子の面を被ったものの姿が松明の光に映し出された。獅子はセプトリス王家の象徴である。ならば馬上の人間は王家の手の者かと言えばそうではない。その仮面にかたどられた獅子の顔は、中心線で真っ二つに割れていた。これは即ち仮面の者が広場に集いし者たちの頭目であることを示していた。兵士、市民は歓喜した。だが、砂漠の民の中には複雑な心境をうかがわせるような表情をしているものも多い。しかし、もう一人の者の登場により、砂漠の民の表情は一変する。
「タファ様」
そう誰かが呟いた。そして人々は見た。灯の中で鈍く光る紅い衣を。それに身を包む狼一族の長を。それを認めた砂漠の民たちは今にも叫ばんという興奮に襲われた。しかし、その興奮は木が石を打つ音で遮られる。頭目が手に持った槍で地面を打ったのである。
「我が同胞よ!」
頭目は声を張り上げた。
「決起の時は来た!欺瞞と殺戮が支配するこの国を、我々が変えようではないか!今宵の革命を以て初めて、セプトリスに真の夜明けが訪れるのだ!いざ、」
ウィリアムは深く息を吸った。
「出陣だ!」
次の瞬間、控えめな、しかし力強い鬨の声が上がった。ウィリアムとタファを先頭に、革命軍は城へ向けて静かに疾走を始めた。
ウィリアムが他者の命を奪うのはこれで何度目だろうか。馬上から槍を繰り出し、彼は城を警護する兵を次々に刺し貫いた。返り血に身を染めながら、ウィリアムは冷静に戦況を分析していた。概ね予定通りと言ったところだろう。今夜動ける兵士の大半が今、自分たちを食い止めるべく城外に出ているはずだ。これが数年前なら、城内にも目の前にいる者と同程度の軍勢が控えていたはずだった。だが、王は殺戮にいそしみすぎた。残党狩りの繰り返しで兵士の総数は着実に減少していた。また、砂漠の民の復讐を恐れるあまり、兵力の多くを国境警備や辺境の見張りに費やしてしまった。外敵を恐れるあまり、国内の敵に対してとことん無防備になってしまっていたのであった。
また一人、兵士の命を奪うと、ウィリアムは城壁を見上げた。闇夜に映える白い城壁の上に、弓を構える者たちの姿を認めた。返してやろう。ウィリアムはそう呟くと矢をつがえ、放った。白銀の甲冑が落ちていくのが見えた。頃合いだな。そう考え、彼は腰の角笛を手に取った。ウィリアムが吹く角笛の音を合図として、巨大な丸太が群集をかき分け現れた。正確には丸太に車輪をつけたものである。革命軍の者たちは丸太を城門にぶつけた。ウィリアムは彼らと兵士の間に立ち、槍を振るい続けた。そして、その時は訪れた。轟音とともに城門が破れ、革命軍の者たちは雄叫びを上げた。ウィリアム、そしてタファ。共に自民族の運命を背負った二人は、ついにセプトリス城内へ張り込んだのであった。