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section1:神世界②

 ゼウス。ギリシア神話の主神。そんなことゲームを嗜む現代人にとって織田信長並みの知名度を持つビッグネームが今自分の眼前に実在している。とこの老人は言っている。

 「……は?」

 自分が素っ頓狂な声を上げたのをみて、眼前の老人の眉根が寄る。

 「なんじゃ。信じられぬか?」

 そう問いかける老人に対し自分は素直に「ハイ」と返してしまう。

 ため息をつく老人。

 今度は自分の眉根が寄る。

 

 我をゼウスだと宣う眼前の老人をゼウスとみなすより「高年期型中二病」みたいな適当な病名を付けてパッケージしてしまったほうがよっぽど楽だろう。


 そのゼウスが言うには「神世界」とかいう異世界であるらしいがネーミングもしっかり上記病状への適応条項に当てはめることもできるかもしれない。


 「さて、お主を不敬罪で今すぐ処罰してもよいのだが…」


 刹那


 老人の右手に稲妻が走る。

 その稲妻は黄金の閃光を放ち、槍の形状へと姿を変える。


 まぁ、こんなもんじゃろ


 そういう老人の一声とともに自分へ投げつけられたその雷槍は自分へと撃ち付けられる。

 

 全身に駆け巡る電流。

 

 カートゥーンアニメなら今頃自分の骨が丸見えになっている事だろうが


 残念だが今自分がいるのは現実だ。


 全身に衝撃とともに骨が砕けんほどの激痛が走る。

 身体を内側から焦されるような感覚とともに、自分は吐血する。


 吹き上がる獄炎に包まれ、鈍剣を抜く。

 自分は眼前の老人へ

 自分でもどうしてなのかわからないほどに

 自分のうちに流れるそれが、

 

 感じたことのない怒りが

 受けた覚えもないはずの憎しみが

 ゼウスと名乗る老人へ殺意として向けられている。


 そして、自分は言葉を発する。


 「あんたが仮にゼウスだとして、だ」


 自分は駆ける。

 ゼウスだと名乗った老人へ

 雷撃を構える敵へ

 鈍剣を振り下ろす!


 「なぁんで、こんなに…ぶん殴りたくなるんだかねぇ!」


 鈍剣の一撃を老人と思えないほどの逞しい右腕と左足が押さえつける。


 「…さぁ、な!」


 老人の右ひざが自分をしたたかに打ち据える。

 上空を舞い、再び地面とキスをする自分。

 

 その様子を見やる老人が鈍剣を握る。


 それをまじまじと見やり

 「刃無き剣。ただひたすらに頑強さを求めた故の強固な板切れ、か」

 その手の中で、足元で


 鈍剣が粉砕される。


 息一つ溜めることなく、まるで綿でも握るかのように粉砕された。


 「だが、神を前にすればこの程度だ」

 

 再び立ち上がる自分へ、ゼウスが迫る。

 その左腕で自分の首を掴み

 右手に握る、鈍剣の欠片を

 

 深々と自分へ突き刺す。


 「こうすれば、少しは『刺さる』だろう?」


 ぼたぼたと流れる血

 ゼウスの右手に雷光が迸る。

 自分の体が、ビクン!と跳ねる。

 体中から煙が発する。

 骨がきしみ、血液が沸騰するような感覚を覚える。

 全身の内側に生えた棘が、肉体を引き裂くような激痛に襲われる。


 自分は、その場で動くことすらままならない。

 

 「わかっただろう」

 ゼウスは自分を蹴り飛ばす。


 ごろごろと、肉塊が転がる。

 

 「この世界の『神』に挑むということが」

 ゼウスの放つ雷撃が、自分を打ち据える。


 痙攣する自分の体


 「お前は所詮、名を持たぬ罪人」

 そういい、ゼウスは自分の頭を踏みつける。

 

 「思い出すとよい、己の名を」

 

 名前、だと。

 ふざけんな、俺にもある。

 ある!名前くらい

 名前は…自分は…


 「……自分の、名」


 暖かな夕日の中で、自分を呼ぶ声がする。

 -なんて、呼んでいた-


 財布からお金を盗んだことがばれて頬を叩かれたあの日

 -なんて、自分は-


 職場で、学校で、数少ない友人から

 家族から

 

 「自分は、なんて…呼ばれていた?」


 思い出せない。

 思い出せない。

 思い出せない。

 そこだけ、まるでかすれた思い出のように声にならない。音が聞こえない。

 耳によくなれたそれが、まるで表現できない。

 

 「…自分は、なんて‥‥‥‥」


 ボロボロの死せる狼にゼウスは告げる。


 「奪われたのさ。罪への罰として」

 そうして、続ける。

 「お前は、良くも悪くも罪に釣り合うだけ功績を積んだ。些細なものではあったが、過去の罪へ釣り合うだけの物をな」

 そうして、自分へ続ける。

 「だから、お前を儂がこの世界に呼んだ。元の世界へ戻ることがないように。この世界で、「仕事」をしてもらうために」

 そうして、自分へ事実を押し付ける。

 「その一環として、冥府の連中はお前の「名」を奪った。「名」を奪われたお前はもう「お前の知るお前」ではなくなり、ただの「珍しい魂」となった。あそこの地獄で裁かれない代わりに、あの世界で還る事ができなくなったのだ」


 そして、その魂を

 あの死せる狼の(ひとつ)に入れたのだ。


 そう告げられた

 そういう事実を

 理解したくない現実を

 当たり前のように、神に告げられた。


 だから、自分はこいつが許せないのか?

 この湧き上がる怒りと、恨み

 これはそれが原因なのか?


 だとしたら


 「まいったな」

 足蹴にされている頭の中で、自分は嗤う。


 「本当に、参った。降参だ」

 文字通り、足元にも及ばない今の自分


 要するに神の手先となるために、そんな身勝手な理由で「名前」を失うことになった自分。

 もし、名前を奪われた事にこんなにも怒っているのなら…


 自分の過去に対し、これだけ感情を揺さぶられてしまっているというのならば

 

 「全く、酷い話もあったもんだ」

 

 ゼウスが違和感を感じたのはそこからだった

 足元のぬくもりは今や煌々と赤熱し、その脚を焼き尽くさんと勢いを増していく。


 距離をとったゼウスの眼前で、ゆっくりとその狼は体を起こす。

 その赤が熱量を増していく。

 石を焼き、草木を燃やし、大地を赤く染めていく。

 血のような灼熱が狼を中心に広がっていく。


 狼は、嗤っている。

 自分を嘲るような、乾いた笑いを浮かべている。


 「…死ぬんじゃなかったよ」

 失ってから、気が付くことがあるというのなら

 これはきっとその最上にあたるものであろう。

 

 仕事と自宅を往復するだけと思っていた毎日。

 その中でも、ゲームをしたり

 時々友達に付き合ったり

 一人で呆ける時間があったり。

 思えば、自分なりに「満たされた」生活でもあった。

 

 容易に捨てたつもりだったはずの自分の人生を、他人からすればつまらないであるはずの人生を

 こんなにも満たされていたのだと、実感させられるくらいには


 生きていたかったのか。


 そう思うと、体の内側から何かが迸る。

 狼の王と相対したときと似ている。

 自分のうちに、「熱」を感じる。

 

 それは今や

 自分自身そのものと感じるほどに煌々と輝いていた。



 ゼウスは、それを見ていた。

 不死身の怪物。

 死せる狼

 溶岩より生まれ、死ぬことのない獣。


 心を持たぬモノ。


 それに魂を注いだのは己だ。

 目的があって、その魂を死せる狼という器に注ぎ込んだ。


 ゼウスは、見定めようとしていた。

 これからかの魂に課される「仕事」を成し遂げられるかどうか。

 それを、見定めていた。


 自分は、イメージする。

 その鈍剣を

 これまで自分を支えてきた、二振りの相棒を。

 

 イメージする。

 自分の熱を

 内側より溢れる、この赤い輝きを

 血のように赤い、灼熱を。


 鈍剣に、仄かな光が宿る。

 空気が、熱を発する。


 赤々と輝く二振りの鈍剣を、自分は構える。


 パリパリと、自分の身体を電気のような何かが走る。


 ゼウスの背後にあるパルテノン神殿もどきが

 大地が

 隔絶されているというこの世界が


 赤くなる

 燃えていく

 熔けていく。

 

 それでも、ゼウスは立っている

 今もなお、自分の眼前に立っている。


 その右手に雷撃を携え

 こちらを見定めるように、立っていた。



 自分は駆ける。

 ゼウスの放つ雷撃が鈍剣を打ち鳴らす。

 

 炸裂する。


 二つのプラズマが

 世界を滅ぼせる神の雷と

 世界を蕩けさせた怪物の炎が

 

 相殺された

 打ち消された。


 消滅した鈍剣

 だが、自分は駆けた。

 この大地を踏みしめ、神へ迫る


 そして燃え滾る大地より、それが生まれる。


 隆起する灼熱。

 形作られる赤熱

 再び鈍剣を構えなおす。


 灼熱の一撃がゼウスへ打ち据えられる。

 それを、雷撃を纏った拳で弾き飛ばすゼウス。


 「そうだ!それが必要なのだ!」

 再び拳に雷撃を纏いなおしながら、ゼウスが叫ぶ。

 

 「その灼熱が!世界さえ焼き尽くさんほどの「熱」が」


 雷の槍(ケラウノス)を、もう一振りの鈍剣にぶつけ、ゼウスが叫ぶ!

 

 その時、自分はすでに構えていた。


 迸る紅雷

 灼岩の赤

 純粋な怒り


 雷炎の槍(プラズマ・スピア)を、ゼウスへ構えていた。


 放たれるその迸る殺意を受けとめるゼウス。

 だがその顔は

 その表情は

 

 「見事、見事だ…死狼!」


 両手の雷を犠牲に、雷炎の槍を打ち消す。

 ゼウスの服の端がチリチリと黒く焼けていく。

 それすらかまうことなく、ゼウスは再び雷撃を構える。


 「お前ならやり遂げられる!仕事を!」

 そう歓喜の声を上げるゼウス。

 

 「ふざけてんじゃねぇ!」

 そう憤怒を叫ぶ自分


 「この世界は今、病魔に侵されつつある!」

 ゼウスが二本の雷の槍を鈍剣にぶつける


 「そんなこと、知ったことじゃぁねぇんだよ!」

 鈍剣を雷の槍にぶつける自分


 「お前のその炎が、病を打ち払う希望の灯火なのだ!」

 ゼウスの雷の拳が自分を貫く


 「勝手に話を…進めるんじゃねぇぞ老害ジジイ!」

 貫かれてなお、ゼウスの腕をかみ砕く自分


 「お前の魂は、良き炎も、悪しき炎も知っている!」

 腕ごとゼウスは自分を切り離す。

 その腕は、雷撃を纏い蘇生していく。

 「それが肝要。お前は数少ない炎のバランスを本能的に知っている(にんげん)だ」

 

 そして、天を覆うほどの閃光が迸る。


 「だからお前が、この世界を救え!」

 ゼウスの雷撃を自分が大地より生み出した盾が防いでいく。

 

 「だったら自分でやれ!ここはお前の世界だろうが!」

 自分が盾を生み出す傍から、ゼウスの雷撃により消滅していく。


 「出来るのならとっくにやっている!この童貞が!」

 「それ今関係ねぇだろうがああぁぁぁぁぁ!」



 神と怪物

 ある意味では、双極に位置するその存在

 それはこの隔絶された世界で

 迸る2つのプラズマとなってなお

 未だ納まりを見せることはない。


 ヒートアップしている戦況とともに、お互いの頭も茹で上がっていく。


 ゼウスの雷撃を、雷炎が遮る。


 「いい加減、くたばれ!このエロジジイ!」

 

 紅蓮の鈍剣を雷撃が打ち砕く


 「女の柔肌の味も知らぬ男に殺されるつもりはないわ!」


 ゼウスの雷を纏う拳が、自分を殴り飛ばす。


 「女の抱いた数しか誇れねぇ奴が作った世界とか、奥さんが今頃滅ぼすんじゃねぇのか?良く言いくるめれたもんだよ!」


 その言葉に対し、ゼウスが蹴りで応対する。


 「我が妻を愚弄するな!クソ狼が!」


 ゼウスの蹴りを受けた自分の体が弾ける

 だがそのエネルギーは、ゼウスを僅かに吹き飛ばすほどの威力を誇っていた。


 そして怪物は、鈍剣とともに甦る。

 無から有を生むように、周囲の熱を吸い込み自らを形成していく。

 赤熱した鈍剣を生み出していく。


 「大体なんだよ病魔って!神様も風邪ひくのか?風通しの良い部屋で全裸で過ごしてるからだよヴァーカ!」

 

 迫る鈍剣

 それをボクシングのスウェーのように上体のみでいなすゼウス。


 「この世界は今、不治の病に侵されておる!それは侵蝕するカビのように悪辣で確実な猛毒を我が世界に発しておるのだ!」

 自分の顔面にゼウスの右ストレートが差し込まれる。

 それを受けてなお、いまだ潰えぬ生命力で自分は立ち上がり吠え散らかす。

 「そのせいで、昨晩はミュレーとの逢瀬を途中で抜け出すことになったのだぞ!」

 そういうゼウスに

 「誰だよその女か美少年!テメェの奥さんに一回刺し殺されとけ浮気野郎!」

 と吠え返す自分。


 そして、金色を放つ光と

 紅蓮に放つ光が交錯する。


 「この功績は良きに計らうぞ?そうだ!おすすめのニンフがおるのだ。きっと気に入るだろうが…童貞には刺激が強いかもしれんな?」

 と嘲るゼウス

 「その脳みそにもイチモツが生えてる病気も、世界が猛毒に侵されている証拠かもなぁ!」

 と吠える自分


 いよいよ感極まったのか、それぞれの放つエネルギーが大地を揺らす


 「いい加減にしやがれ、このクソ童貞が!」

「いい加減にしやがれ、セックスジャンキーが!」


 双方が叫び、お互いの最大火力をぶつけ合う。


 それは、隔絶された世界をあっさりと崩壊させるには十分すぎるほどであった。




 「…つまり、自分は」

 周囲を埋め尽くす青

 眼前にあるのは白

 

 リアリティのある言い方をすると成層圏の真下くらいから


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 「炎を知る魂であるがゆえに、この世界に蔓延しているその病気を払える。ってことでいいんだな?」


 そういう自分に頷くゼウス


 「そうだ。お前自身の魂が今のお前の体が持つ炎を強く理解すればするほど、その感情を強く震わせるほどに、お前は強くなる」

 先ほどの戦闘での解説をゼウスがやっている。

 

 要するに、あれが「自分」もといバチギレしたこの狼の本気。

 確かにこれは、封印くらいしたくもなる。


 「とんだチュートリアルだ」


 「今、まさに飛んでいるしの」

 

 「うるせぇ」


 この世界は、ゼウスが作った。

 雲を抜けた先に広がったその光景は



 「綺麗だな」


 その一言に尽きる。


 「だろう」

 そうとだけ返すゼウス。

 

「この世界は、お前が生前いたあの世界…我々の、信仰が薄らいだ世界ではない。新しい我々の「ギリシア」をここに作ったのだ」

 眼下の景色を見るゼウスの顔は、どこか哀愁を漂わせていた。


「ここは、我々オリュンポスの新たな故郷。新たな世界。新たな治世。それを成すために作り上げたのだ。今度こそ、失わぬためにな」


 その顔を、自分は横目で見ていた。

「この世界では、お前達の世界にいたころに得た技術や知見も多く持ち込んでおる。ドアは便利じゃな。音で誰が入ってくるのかすぐにわかる」

 

「それなら今度はお前の奥さんに効率的なドアの破り方を教えないとな」


「お前がそれを教えた日には臓物を鷲に啄ませてやる」


 つまり、まとめるとこんな感じだ。


 実は自分たちのいる世界につい最近まで、ゼウス達神々も存在していたらしい。

 だが失われゆく信仰の中でオリュンポスは消滅の危機を迎えていたのだという。

 地獄でみたケルベロスやハデスはそういう経緯であっちの地獄に出向しているのだという。

 そして、オリュンポスの神々は生存権の確保のため新しい世界を作り上げた。

 自分たちがいた世界の技術等々を持ち込んで。

 小話程度だが、北欧などの神々も同じように自分たちの新たな世界を作ったりしているのだという。


 地獄以外は枝分かれした並行世界。ということらしい。


 そして、ゼウスは自分に告げる。


 「この世界に希望を灯してほしい。その火によって」


 それに、自分は返す。

 

 「とりあえず、一回死んだ後でな」


 直後、自分は大地と盛大なフライング・キスをした。

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