この品物の上位互換品は何か?
八百万の神がいる世界。
神と人間はお互いを認識しており、友好関係が結べている。
友好状態ということはつまり、暇だ。
ある国で小さな事で泉の神をやっている私 泉田も暇を持て余し、近隣にいる神々と集まってだらだら過ごすことが多かった。
「人も連休とかたまにしか来ないしさ、ほんと暇だよね。次の連休いつだっけ?」
「あー、、2ヶ月は先だね」
「めっちゃ先じゃーん。奇跡を起こす腕も鈍っちゃうよー。どうにか人を呼べないもんかねー」
近くにある大木の神である大木に愚痴を吐いていると、大木は閃いた顔で話してきた。
「なんか西の方の国の神がKamitubeでバズってたのよ。
うちらもそれやらない?」
「え、気になる。何やってたの?」
「泉田みたいに泉の神らしいんだけど、撮影中にたまたま斧が沈んできたんだって。
まぁ困ってたらあれだし、返すかーって思ったけど普通じゃない返し方したみたいなのよ」
「どんな返し方したの?」
「わざと金の斧と銀の斧持っていったんだって」
「なんで材質変えてんのよ、びっくりすぎるわ。しかも増えてるし」
「ヤバいよね。しかも『あなたが落としたのはこの金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?』ってわざわざ聞いて、人が『鉄です』って答えたから金銀鉄3本セットであげたらしいよ」
「正解の商品激ヤバじゃん」
「でしょ?終始意味わかんないからバズったみたい。
これパクって何かやろうよ。その泉けっこう人が来るようになったらしいよ」
「いいね、どうせ暇だしやろうやろう」
さすが流行に敏感な大木だ。
今っぽいことを提案してくる。
しかし、やる流れになった後に大木が詳しく調べてみると、同じ事をやってKamitubeにあげている神が他にもけっこういるみたいだった。
それだと微妙だねと意見が一致し、やり方を少し変えることにした。
「2種類持って上がる必要無くない?」
「確かに無いね。1つにしよっか。
たしか泉田って聞こうと思ったら人の心の声聞けたよね?」
「あー聞けるよー。なんで?」
「どうせ他の物持って上がるなら、人が欲しがってる上位互換品当てるゲームにしない?
一回良いものあげちゃうと、どうせそれ目的ばっかになるんだろうし」
「それ良いねー。落ちてきた物だけ見て上位互換品決めて、それを持って上がったときの人の心の声聞いて正解だったか確認する感じでしょ?」
「さすが泉田、察しが良いねー。
そんな感じでやろうよ」
こちらが楽しむゲーム性もできた。
良い暇つぶしになりそうだ。
○
「ねえ大木、話が違くないか?」
「え、何が?」
「あれから2週間経つけど、物なんか一個も落ちてこなくない?」
「そりゃー……、、そもそも人がいないからねー……」
大誤算だ。
企画の前提が間違っていた。
早急に対策が必要だ。
大木とあれこれ対策案を話している中、良さそうな案を閃いた。
「向こうの大岩の神の岩本いるじゃない?
人に天からのお告げっぽく話せる能力持ってなかったっけ?」
「あー、確か持ってるよ。呼ぶ?」
「呼んでー。どうせ暇してるでしょ」
大木に岩本を呼んでもらうと、予想通り暇していたらしくすぐに来た。
「久しぶりに家から出た気がします。
お二人に会うのも久しぶりですね。今日はどうされたんですか?」
なぜか敬語キャラになっていることはスルーしつつ、岩本にこれまでの経緯を説明した。
「そんなことやろうとしてるんですね。
でも確かにこのあたりは連休中ぐらいしかなかなか人来ないですもんね」
「そういうことだからお告げで誰か呼んで欲しいんだよね。
お告げでホイホイやってきそうな良さげの人知らない?
私も大木もその能力無いから心当たりもいないのよ」
「んー、最近よく家の近くにくるハナダさんなら行けるかもです。
お告げで何て言います?」
「普段愛用している物を泉に沈めたら、それより良い物を貰えるよ。
雰囲気こんな感じで、細かい文章は岩本に任せるよ」
「承知いたしました。
良い物貰って喜んだハナダさんが周りに話したら、お告げ無しでも人が来るようになりますもんね」
「そうそう、それ狙い。
明日の10時に来るようにそのハナダさんに言ってよ。
もちろん岩本も来てね。何欲しいかみんなで予想しようよ」
○
次の日、9時55分。
三人で家の中から水面を見つめていた。
「岩本、良い感じに言ってくれた?」
「もちろん。神の威厳を最大限に出しながら言いましたよ。
オッケーって返事してました」
「友達かよ」
岩本に頼んだことを若干後悔していると、
ポチャン……
と小さな音を立てて水面が揺れた。
……来た。
時間ぴったりだ。
ゆっくりと落ちてきたソレを受けとるが、言葉が出ない。
少しの間があいた後、三人の沈黙を大木が破った。
「……箱ティッシュだよね?未開封の」
「ああ。5パックセットとかで売られている箱ティッシュだ」
「普段愛用している物って指定入れた、よね?」
二人で岩本を見ると、申し訳なさそうに岩本が話し始めた。
「ハナダさんけっこう重めの花粉症みたいなんですよね。
『この時期はポケットティッシュじゃ足りないから、毎日箱ティッシュ持ち歩いてるんですよー』って言ってるの聞いたことあります……」
……愛用品ではあるな。
想定はしてなかったけど。
この企画初めての物が箱ティッシュなのは正直テンションが下がるが、神として約束を破るのも良くない。
三人で上位互換品について話し合ったが、すんなり決まった。
大木が能力で作った上位互換品を受け取り、キメ顔を鏡で確認し、水面まで上がって行った。
「あなたが落としたのは、この"鼻セレブ"ですか?」
(うわー、本当に良い物に変わったー。
欲しかったんだよね鼻セレブ。痛くなりにくいけどちょっと高いからいつも安い普通のやつで我慢してたんだよね)
テンションが上がっているハナダさんの心の声が聞こえてきた。
とても喜んでいることはわかるが、返事が無い。
《初回なので決まったルーティーンはちゃんとやろうね》と三人で話していたので、仕方なくもう一度質問を投げた。
「この"鼻セレブ" ですか?」
(あ、返事しないと。
違うなら違うってちゃんと正直に言ってねって岩もっちゃんが昨日言ってたな)
「友達かよ……」
「え?」
岩本の野郎、なにが《神の威厳を最大限に出しながら言いましたよ》だ。
あだ名で呼ばれる神の威厳ってなんなんだ。
なんかムカつくから、戻ったらとりあえず説教だな。
内心イライラしていると、ハナダさんが恐る恐ると言った様子で話した。
「私が落としたのは普通の箱ティッシュです」
「あなたは正直者ですね。
普通の箱ティッシュと鼻セレブをあげましょう」
ハナダさんの勇気のおかげて締めのセリフは良い感じだった。
しょうがない、ハナダさんに免じて今回は岩本を許してやるか。
そう思いながら下で待つ二人の所へ戻ると、真っ先に大木が近寄って来た。
「どうだった?さすがに正解だったでしょ?」
「当たりだったよー。ハナダさんめっちゃ喜んでたよ」
「でしょー。箱ティッシュ見たときはどうなるかと思ったけど、ゲームとしては予想が簡単で良かったね」
私と大木がワイワイ話している所を見て岩本も安心した様子だった。
○
「大木この企画Kamitubeにあげたんでしょ?
今どんな感じなの?」
「んー、ぼちぼちってとこかなー」
「ぼちぼちねー……。
ところで岩本、話が違くないか?」
「え、いきなりなんですか?」
「ハナダさんが周りに話すことで評判広めて、その後は人が来る予定だったじゃん?
実際どうよ?」
「ハナダさんしか来てないですね……。
いちおう毎日来てはいますけど」
ハナダさんは確かに毎日来てる。
毎日朝のだいたい同じ時間に来て、毎日箱ティッシュを投げ、毎日鼻セレブをほくほく顔で持ち帰っている。
「泉田知ってる?泉田ってKamitubeのコメントで"鼻セレブ工場長"って言われてるよ」
大木がとんでもない情報をサラッと言ってきた。
《知ってる?》って、知ってるわけないだろ。
勝手に神から工場長にジョブチェンジさせるな。
早急な軌道修正が必要だ。
「ハナダさんに任せてても全然この企画のこと広まらないから手段を変えよう。
大木でも岩本でもいいけど、噂話とか大好きな感じのスピーカーおばさん知らない?
その人に話したら町中に広まる感じの」
「あ、私一人心当たりありますよ」
無駄に知り合い多いな岩本。
だがナイスだ。
「じゃあまたハナダさんにお告げしよう。
家に来る前と後でそのおばさんに箱ティッシュをアピールさせて、増えていることにおばさんが気づきさえしたらあとは根掘り葉掘り勝手に聞きだすでしょ。
ハナダさんへの伝え方で細かい部分はまた岩本に任せるから」
「承知いたしました。
また良い感じでお告げしておきます」
○
そこから数日は変わらずハナダさんだけが来ていた。
大丈夫、まだあわてるような時間じゃない。
今は噂が広まりつつあり、聞いた人も行くか迷ってるぐらいのタイミングのはずだ。
いや、行動力がある人ならそろそろ来ても良い頃合いかもしれない。
ボチャン!
明らかに箱ティッシュとは違う重みのある音が水面の方から鳴った。
「来たか」
三人で上を見上げると、小さめの物がスーッと沈んできた。
「これは……、たぶんzPhoneだよね?」
「たぶんそうだけど、なんか小さくない?」
「ちょっと借りていいですか?」
zPhoneであろう物を手に取った岩本は色んな角度から眺めている。
大木は鑑定のときのBGMを口ずさんでいる。
仕方ないから司会やるか。
「オープンザプライス!」
「え、企画変わってませんか?」
どうやら岩本は突然のフリには対応できないタイプのようだ。
いつの間にかフリップを出して依頼人のフリをしていた大木もフリップを投げ捨てていた。
「これzPhoneの5sですね。びっくりなのがまだ普通に使っている雰囲気があります」
「まじ?10年以上前のやつじゃん。
愛用しすぎでしょ」
「まぁでもこれはもうアレしかないよね。
大木、よろしくね」
大木からブツを受け取り、自信満々で水面に上がっていった。
「あなたが落としたのは、この"zPhone15pro"ですか?」
(噂まじだったー! 最新機種きたー!
これで盛れる写真撮ったり、スペック要るゲームやったりもできる!)
「は……。
いいえ、私が落としたのはzPhone5sです」
「あなたは正直者ですね。
5sと15proをあげましょう。
データ移行はご自分でやってください」
今回はかなりスムーズに一連の流れをやることができた。
ちょっとアドリブ入っちゃったけど、まぁ大丈夫でしょう。
満足気に下に戻ると、ハイタッチ待ち状態の大木と岩本が迎えてくれた。
「いやー、今回は成功でしょ。
予想もバッチリ当たったし、映えるようなちょっとお高めの上位互換品だったし」
「これでやっと鼻セレブ専門を脱出できましたね。良かったですね工場長」
……岩本はやっぱりどこのタイミングで一度シメなきゃいけないようだ。
○
zPhoneの件が上手く広まったようで、毎日数人の人が来るようになった。
「あなたが落としたのは、この"ディナー付きスイートルームペア宿泊券"ですか?」
(一番高いプランきたーー!)
「いいえ。私が落としたのは窓無しツインルームペア素泊まり券です」
>
「あなたが落としたのは、この"nakitaの電動ドライバー"ですか?」
(狙ったメーカーの狙ったヤツきたー!)
「いいえ、百均で買ったプラスドライバーです」
>
「あなたが落としたのは、この"Lorexの腕時計"ですか?」
(パチモンの時計が本物に化けたー!)
「いいえ。私は路上で陽気な人から買った謎ブランドの腕時計を落としました」
>
完璧だった。
百発百中で予想が当たる。
《KamitubeLiveやって視聴者にも予想させちゃおうよ》と言いだした大木の提案にのったのが正解だった。
予想の幅は広がって精度が上がるし、視聴者数も増えた。
私たち三人も視聴者もノリノリだった。
《もっと難しいモノ来て欲しい》とコメントする神も多かった。
ボチャン……
そんな中また一つ物が沈んできた。
「鶏の胸肉……、だよね?」
「そりゃそうでしょ、値札に商品名書いてあるし。
なんでわざわざコレ選んだかは理解できないけど」
「この場合どうなるんですかね?
外国産だから国内のブランド鶏胸肉とかですか?」
「いや、もも肉かも」
「鴨とか他の鳥の可能性ってありますかね?」
この後議論が荒れに荒れた。
KamitubeLiveの視聴者も含めアレコレ案が出すぎてまとまる気配が無い。
時計を見るともうすぐ10分経つ。
待たせすぎるのは神の威厳に関わる。
しょうがないので多数決の一位を持って急いで水面に上がった。
あ、ちょっと不機嫌そう。
でもここでペースを乱してはダメだ。
いつもどおり、いつもどおり。
「あなたが落としたのは、この"Tボーンステーキ"ですか?」
(は?今日の晩ご飯チキン南蛮からから揚げに変更する予定だったんですけど?
ちゃんともも肉出してきてよ。
てかなんで焼いてんの?調理済みなのもTボーンをチョイスしたのも全然意味わかんない)
「え、違いますけど……」
初めて予想を外した上に心の声でボロクソに言われた……。
とりあえず胸肉とステーキを渡し深々と頭を下げた後、家に戻った。
戻ってきたときの私の雰囲気に気づき、二人は心配そうに声をかけてきた。
二人には言われた内容をそのまま伝えた。
「え、あ、そんな感じだったんだ。
でもみんなで選んだ結果なんだから仕方ないよね。
泉田もあんまり気にしちゃダメだよ」
「ちょっと調子にのってたかもしれないですね……。
でもまあ次から気を引き締めてまたみんなでワイワイやっていきましょう」
大木も岩本も意外に優しい。
元気出てきた。
「ほら、Kamitubeのコメントも『正直すまなかった』とか『ごめん』とかみんな謝っているよ?」
大木からコメントを見せてもらうと更に元気が出てきた。
「よし、じゃあまた次からキッチリ当てていきましょ」
私の言葉に二人も安心したようだった。
この日、視聴者も含めた全員に"食べ物が来たときは気をつけろ!"の共通認識が生まれた。
○
鶏の胸肉の件は意外と悪評としては広まらず、その後も人が毎日来る状態が続いていた。
「あなたが落としたのは、この"タイガー屋のようかん"ですか?」
(やった!久しぶりに食べたかったんだよね)
「いいえ、私が落としたのは違うお店で買ったようかんです」
>
「あなたが落としたのは、この"治三郎のバウムクーヘン"ですか?」
(あ、おしい!そこも大好きで嬉しいけど、今日は"げつりん屋"のバームクーヘンの方が食べたかったな)
「いいえ、私が落としたのは違います」
>
食料品はたまに外すこともあったが、それ以外は脅威の的中率を維持することができていた。
つまり。
私たち三人も視聴者もまた調子にのりだしていた。
「食べ物以外は完璧だし、食べ物も誤差みたいな感じだから問題ないっしょ」
「こっちは色んな神々が束になって予想してるからね」
「視聴者の中には"予想屋"みたいオッズかけてる者までいますもんねー」
ドッボーーン!
みんなでワイワイしていると、水面で大きな音が鳴った。
大きめの物が落ちてきたんだろうか。
三人とも沈んできた物の所へ急いだ。
「え、ついにキタね」
「きたね。始祖、原点、オリジナル。
どう呼べばいいかはわかんないけど」
「これはあれですよね。鉄の斧!」
KamitubeLiveのコメントもお祭り状態になっていた。
他の国であったことは、ちゃんと自国でも起こりうるんだな。
ただ、ちょっとやっかいでもあった。
「金か、銀か。大木はどっち派よ?」
「だよねー、そこだよね。渡すのは一つだもんね。
んー、やっぱり金かなー」
「私は銀派ですねー。金だと全然違うの物に見えますけど、銀ならパワーアップした雰囲気がありますし」
Kamitubeのコメントも意外と半々ぐらいで割れていたが、選択肢が2つなので上手く収束させていくことができた。
「あなたが落としたのは、この"金の斧"ですか?」
(何出してきてんだコイツは。木を切るんだから、チェーンソー欲しかったのに!
金なんて重いのに柔くて全然使い物にならないじゃないか。
ギャルみたいな格好しているから、やっぱりその辺のこととかわかんないんだろうな)
……返事を聞く前に家に戻ってしまった。
驚いて駆け寄ってきた二人に伝えた。
「全然違った!!
しかもギャルもバカにされた!!」
こうしてギャル女神三人に"工具類にも気をつけろ!"の共通認識が追加された。
神たちの暇つぶしは続く。
ちゃんとした短編は初めて書きました。
感想待ってます。
現実世界[恋愛]ジャンルで連載書いてますので、
そちらもぜひ読んでください。
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