ナントカ効果
佐野:「……なあ」
山田:「うん?」
二階堂:「なに?」
佐野:「こういうのなんて言ったっけ」
山田:「あん?」
二階堂:「こういうの?」
佐野:「今の状況みたいなことをさ。ほら、心理学的なやつで、ナントカ効果だのなんだのあるじゃん。なんて言ったっけ」
山田:「わかるかよ。抽象的すぎるだろ」
二階堂:「あー、スノッブ効果?」
佐野:「んー、いや違うと思うなぁ。聞き覚えがない」
山田:「ちなみにそれって、どんな効果?」
二階堂:「希少性が高いものほど欲しくなる効果だよ。限定品とかさ」
佐野:「希少性ねぇ……まあ、間違っちゃいないが」
山田:「全員、若い上に男性経験がないって言ってたもんな」
二階堂:「違うかぁ。んー、じゃあバンドワゴン効果」
佐野:「バンドにワゴン? いやー、そんな名称なら覚えてるよ」
山田:「ははは、で、それはどんな効果?」
二階堂:「みんなが欲しがるものを自分も欲しくなっちゃう効果。『こちらは今、大人気商品です』とかね」
佐野:「あー、ステマとかそういうやつだな」
山田:「そう言えばあの子たち、『言い寄ってくる人は多いけど、でもなかなかお付き合いには至らなくて……』って言ってたなぁ」
二階堂:「あっ、あれじゃない? バーナム効果。誰にでも当てはまるような曖昧なことを言われているのに、自分にガッチリ当てはまっていると勘違いしちゃう効果」
佐野:「占い師とかが使いそうなやつだな。でも、それじゃなくてさ」
山田:「あの子が言った好きな人のタイプ。絶対、おれだよなぁ……」
二階堂:「じゃあ、ハロー効果。一つ良い部分を見つけると、欠点があっても気にならない、それどころか良いように見えちゃうってやつ」
佐野:「まあ、当たってなくはないけど、そうじゃなくてさぁ」
山田:「ホント、好みのタイプで最高だよなぁ……。にしても、あの子たち、なかなか戻ってこないな」
二階堂:「だね。お前がセクハラめいたことばっかりするから、嫌になっちゃったんじゃないの?」
佐野:「そうだよ。合コンの冒頭で経験人数発表大会~! とか言い出して引いたわ」
山田:「いやー、そうか逆ハロー効果になっちまったか。つまり、グッドナイト効果だな」
佐野:「何だよグッドナイト効果って。ねえだろ」
二階堂:「ハロー効果の逆はホーンズ効果ね。一つが悪いと何もかも悪く見えちゃうやつ」
山田:「夜はおれを昂らせ変身させる……獣に!」
佐野:「うるせえな! にしてもお前、よく知ってるな」
二階堂:「今夜の合コンのために心理学の本を読んで勉強してきたんだよ」
佐野:「真面目かよ。いや、真面目かはわからないけど」
二階堂:「それで結局、どれが合ってた?」
佐野:「いや、どれも違うなぁ……」
二階堂:「じゃあ、ザイオンス効果。接触回数が多いほど好意を抱くようになる。CMとかね」
佐野:「んー、違う」
山田:「おれの肩とか太ももとかに触ってさぁ! 好き! おれももっと触りたかった!」
二階堂:「カリギュラ効果。禁止されたことをついついやりたくなってしまう」
佐野:「んー、違うな……」
山田:「ダメな気はしてたけど、だからこそしたくなるじゃん!」
二階堂:「ウインザー効果。本人が情報発信するよりも第三者の口コミやレビューの方が信頼性を高く感じちゃう効果」
佐野:「ちがうなぁ。いや、まあここに来たのは、そのせいもあるかもしれないけど」
山田:「あの子の言うことなら、何でも信じられる!」
二階堂:「テンションリダクション効果。大きな買い物や意思決定の後は警戒心が緩んじゃう効果。つい勢いで、これも買っちゃう的な」
佐野:「あー……違うな」
山田:「ねだられて高いお酒をバンバン頼んだのに、向こうの警戒心は全然緩まないのな!」
二階堂:「カクテルパーティー効果」
佐野:「違う」
山田:「あの子の声しか聞こえなくて他に考えられなくてぇ……」
二階堂:「スリーパー効果」
佐野:「それも違う」
山田:「徐々に嘘なんじゃないかって思い始めたけど……」
二階堂:「ピグマリオン効果」
佐野:「違う」
山田:「おれのこと褒めるから、じゃんじゃん注文しちゃってぇ……」
二階堂:「もっと有名なやつ? サブリミナル効果」
佐野:「いや、違う」
山田:「あの子ってば軽くボディタッチして囁くんだもんなぁ……」
二階堂:「あ、コンコルド効果! これまでにかけた時間やお金が無駄になること惜しんで、ずるずると逃げ出せずにいるやつ」
佐野:「あっ、それだ!」
山田:「あ、き、来た!」
「お客さん、一度お会計をお願いしますよぉ。875万円になりますね」
佐野:「なあ、やっぱりこの店、それにおれらを連れてきた、あの子たちって……」
山田:「ぼぼぼぼ、ボッタクリバァ……」
二階堂:「これは、バタフライ効果と言えなくもないかな……」