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「あんた、何言って……」


無愛の提案に、驚くなという方が無理だろう。今まで平和を願いながら、悪とされ戦ってきた者に、平和のために死ねと思えるほど、青海たちは非情でない。


「これが最善手だよ。さすがに何もないけど出ていけ、は無理でしょ」


無愛からしても、何も失わずに済むのならばそれがいい。だが、既に被害は多くあり、何も失わずに解決することは不可能。ならば、互いに痛み分けとすればいい。メノウはこの地を失い、人間は【月】を失う。人間からすれば被害はないが、無愛のことを知る者からすれば、十分だろう。その程度の価値は、自分にあるだろうと、希望も混じったものだった。


「こいつらはどうするのよ。あんたを信じてついてきたんでしょ?」

「人間の生活に溶け込めるさ。それに、話はしてあるよ」


【月】は承知の上だ。ただ一人、影夜を除いて。


「……慧斗もか」

「信樹さんからですがね」


知ってはいる。だが納得はできない。慧斗としても、【月】に入れてくれた、【月】を作った無愛を失う経験など、二度としたくはない。たとえそれが、無愛が決めたことだとしても。


「残される側の気持ち、考えなさいよ」

「……考えないワケじゃないよ。でも、これが一番安全なんだよ」


自分の立ち位置を、価値を、無愛は正しく理解している。人間によって造られたメノウ。知性持ちメノウの子でもあり、王の器としての素質を持つ、稀有な存在。王の器である無愛がいる以上、メノウはどうしても生まれ続けてしまう。王の元に帰るというメノウの本能は、器である無愛と王を誤認してしまう。


「器の力を取り除く手段がないんだよ。私が残れば、メノウはまた生まれる。なら、器と王を一つにしてしまえばいい。そうすれば、メノウがこちらに現れることがなくなる」


自己犠牲とも言えるそれは、無愛にとっては恩返しのようなものだった。ワケも分からず生まれてきた自分を妹のように育ててくれた影夜への。突然現れ、協力を求めてきた自分を信じてこうして助けてくれた【月】への。自分を一人の人間として扱ってくれた青海たちへの。


「メノウは消えるって言ったが、影夜たちは」

「そこは問題ないよ。信樹に史たちの能力使わせれて事象を操ればいいし」

「器の役割を放棄するのは」

「無理だろうね。能力に起因するものだし」


能力を渡せば解決する。しかしそれは、あくまで器の役割を押しつけただけ。器は残り、メノウも生まれ続ける。問題の解決にはならない。そうまでして生き延びるつもりは、無愛にはなかった。






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