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79.




「……来たね」


無愛は視線を中央へと向ける。そこには既にあのメノウの身体はなく、ただ血の海があるだけ。そして、そこに訪れた、招かれた客。


「人……?」


銀色に光る腰まである髪に、青白い肌も相まって、どこか幻想的に見えるその人物は血の海に目もくれず、無愛を見た。


「久しぶりだね。最後に会ったのはあなたが私を殺したときかな」

「……久しいな。どれだけ貴様が動こうとも、我が意思は変わらぬ」

「これだけ臣下が死んでまだそう言えるとはね」


かつて突如として姿を消した【死月の災厄】は、目の前の人間に殺されていた。青海たちがあれほど苦戦を強いられ、拮抗状態であった相手を。


「生き死ぬ。それこそが生命(いのち)の本質であり、循環だ。人間の際限なき欲。それによって行われる自然の破壊。それらの怒りが生み出したのが我々だろうに」

「私たちの時代は終わりだよ。人は既にほとんどのメノウを倒している。これから生まれる者たちも、昔のように強大な力を持つことはない」


メノウがこれ以上戦ったとして、残るのは死体だろう。本能のままに暴れるメノウと、知恵を絞り、時間が経つ毎に強くなっていく人間。どちらが生存競争に勝つかは、目に見えている。人間がいまだに恐れているのは知恵を持つメノウであり、【月】のように敵対意思を明確にしてくる存在。もはや本能で動くメノウを恐れるほどではなくなってきている。


「無論、ただで消えろなんて言わないさ。場所もあるし、これ以上民が死ぬのは望んでないだろ?」

「……提案にのらなければ?」

「お前を殺したあと王の権限をもらい、メノウを殺す。この状況でお前が勝てると思ってんならやればいいと思うよ」


無愛に殺されるか、提案を呑み、今生きるメノウと共にこの地を手放すか。後者を選んだとして、そこで死んでしまえば意味はない。


「まるで脅しだな」

「あんたがやったのと同じだよ。【死月の災厄】を殺し、【月】が人間に攻撃するように仕向けたのと同じ。悪いけど、手段を選ぶつもりはない」


知りもしない、その上自分を殺しに来る同族など必要はない。自分の知る者たちとどちらかを取るかなど、決まっている。


「……要求は」

「ここから出ていくこと。場所は用意してあるし、環境はかなり近いはずだよ」


無愛とてメノウに死んでほしいと願っているワケではない。共存ができないのなら、隔離してしまえばいい。メノウ自体の知能は低くとも、王さえいれば成長していくこともできるだろう。


「その代わりと言ってはなんだが、私の命と記憶と肉体。それを渡すことで手を打ってくれないかな」






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