73.
詠斗たちが【文月】を追いかけている間、史たちは防戦を強いられていた。しかし、突然信樹が攻撃を止めてどこかへと走り 出す。
「逃げた!?」
通信で【可月】、無愛もどこかへ向かっていると報告が入る。攻撃を止めてまで向かう場所。向かう方向を見ると、おそらく最初に対峙した場所。
「合流される前に倒したいが」
「あんなデカイの持っててどうしたらあの速度出せるの」
史たちと信樹の距離は開く一方。信樹は時折史たちの方を見ては何かを呟いている。五分ほど走り続ければ、そこには全員が最初と同じように揃っていた。
「……遙翔さん?」
「死んだはずじゃ」
「生きてたのよ。あのとき身体がなかったのも納得だわ」
【可月】……遙翔を見て驚く面々。死んだと思われていた軍の人間が、【月】として自分たちと敵対している。それも、長年軍に属し、貢献していた人間が。
「さてさて。君たちはずいぶんお疲れのようだけど、私たちは残念ながら体力底なし。大丈夫そ?」
「疲弊してるくせによく言うわね」
「この程度なら昔ちょっとはしゃいでたのと同じくらいだからねぇ。青海たちと違って私は素でこれ。遙翔の能力で私と対等だった昔とは違うよ」
青海たちがかつて無愛と何度も戦えていたのは遙翔の能力によって不死性を持っていたから。現在はその効果は失われている。昔のように無茶をすればあるのは死だ。
「一つ聞きたいんだけど、あんたたちが言ってることって本当なの?」
「どれのことか存じ上げてないんだけど、メノウの件やら裏切り者の件なら本当だよ」
無愛はこういうことに関して嘘をつかない。だからこそ、この中に敵がいることを理解しなければならない。他の者が言えば、疑心暗鬼を狙った嘘だとも思えたが……。
「それで真っ先に疑うのなら影夜だから嫌なのよねぇ……」
「俺がそうだったらまずここに来る前にお前ら全滅だよ」
「あれ、意外。てっきり争うと思ってたのに」
無愛としては疑心暗鬼になって疑い争う方が面白かったのだが、しないようだ。それだけ信頼しているということだが、そちらの方が裏切られたときにツラいだろく。
「君らの見立て的には私が嘘ついてるってことになんのかね」
「まさか。あんたはこの手の冗談が嫌いでしょ」
「じゃあ分かった上で対処しないの?」
無愛からすれば面白くないだろう。しかし、別に青海たちが対処する必要はない。何故なら、
「いるんでしょ。【月】が全員」
「……やれ」
「全員下がりなさい!!」
青海はそう指示すると同時に一人の人物へ重力をかける。その行動だけでも史たちは驚くが、その瞬間、その人物の肩を何かが貫いた。
「答え合わせだねぇ。ニセモノさん」




