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「懐かしいわね。一年とちょっとぶりかしら」
青海たちは草木の生い茂る森に来ていた。そこはかつて、【腐月】を尋ねるために訪れた森。来た理由は他でもなく、無愛からの手紙だ。
一週間ほど前、センサーに感知されることなく軍内部に入ってきた【文月】。一人で来ること自体が自殺行為にも繋がると言うのに、【文月】は殺されない自信があるのか、警戒することもなく無愛からの手紙を渡した。半信半疑だった青海たちだったが、無愛の手紙を見てあえて【文月】を無傷で帰した。
「結局、なんであのとき帰したんですか?」
「【文月】を攻撃すればその話はなしで暴れるぞって言ってるようなもんだ」
ただなんとなくで【文月】を選んだワケではない。信樹や【可月】、ルシファーでは戦闘になる恐れがあった。現状一番被害を出していない【文月】であれば、青海たちが攻撃することはないと考えたのだろう。もしも攻撃されればやり返せという命令も下しているはずだ。
「あいつは倒せても、すぐさま信樹が飛んでくる。そうなればこっちが不利だ」
話をしながら歩いていけば、以前とは違い開けた場所にたどり着いた。不気味なほどに開けており、わざわざそのために作ったようにも思える。
「すごいでしょ。【永月】と【華月】に頼んで用意してもらったフィールドだよ」
目の前には笑顔で説明をする無愛とこんな調子でいいのかと少し心配そうにしている信樹たち。無愛はその笑顔とは裏腹に掴みどころがなく、どこか殺気が混じっている。
「予想通りで結構結構。それじゃあ、始めよか」
「全員下がれ!」
信樹が大鎌を地面に叩きつけ、青海たちは左右に回避する。
「……ずいぶんと、思いきった賭けに出たね」
「意外か?」
「そりゃあね」
ルシファーにはミカエル。無愛には影夜。そこまでは前回同様だが、【可月】に青海と笙人を向け、【文月】には紗愛と音葉の黒瀬姉妹に詠斗とゆら、信樹には雫と尊、光泰と史。あえて信樹ではなく【可月】に最大戦力である青海を持ってきた理由が無愛には理解できない。
「普通別でしょ」
「あいつらも青海の下に長いこといる。負けはしねぇよ」
「せめて【文月】と逆だろ」
無愛の知る限り、もっとも長く生きているのは青海と笙人ではなく詠斗だ。
東雲詠斗。軍の最高司令官であり、青海たちの産まれる前から生きている人物。【真偽】という戦闘にどう活かせるのかも分からない能力を持ちながら最前線に出て数多のメノウを倒し、功績を残し続けた人物。
「結局、私らが勝つか負けるかで決まるってワケだ」




