68.
「安静ですからね」
「分かってるよ」
「分かってないだろ」
影夜たちが準備を着々と進めている間、無愛はのんびりとしていた。メノウの強さは基本的に変わらない。そして無愛側の者はほとんどがメノウであり、メノウでない者も人間としての成長はしきっている。軽く運動する程度でいい、という判断だった。最大の理由は、無愛がいまだにあのとき青海に付けられた傷を治癒しきっていないからだが。
「やはり治りが遅いですね」
「まぁ、かなり弱ってるからね」
「副作用だっけか」
「このくらいの代償は仕方ないさ。理をねじ曲げてるんだ」
まだ動けているから大丈夫、と笑うがそんな簡単な話ではない。元々能力が一人につき一つであるのは肉体が耐えられないため。一樹のように一部メノウは生まれたときから備わっている能力とその後に人々からの信仰などによって能力を持つことになった。しかし、無愛の場合は先天的。肉体の成長がしきっていない。その状態で多くの能力を持ち、行使すれば当然肉体は耐えられない。影夜が基本的に使う能力を一つに絞っているのはそれが理由だ。
「死ぬのはちゃんと終わらせてからって決めてるしね」
「あまりそういうことは言うな。死なれては困るんだ」
「死ぬ気はないさ。でも、万が一があるでしょ。それに、元々はもっと早くに終わらせるべきだったものだ」
青海たちがどう動こうと無愛たちの目的は決まっている。それを達成するためには、誰一人欠けずに行くしかない。
「勝てるのか? 回復役がいないとは言えど、相手は青海と笙人率いる対メノウのスペシャリストだぞ」
「勝つさ。既に賽は投げられた。どう転ぼうが、私たちの勝利は絶対」
「何故そこまで言いきれるのですか?」
「影夜が私を殺すはずないから」
さも当然のように言う無愛に、一瞬呆気に取られる。いくら兄とは言え、敵ではあれば殺す可能性は大いにある。だと言うのに、ないと断言できる根拠がどこにあるのか。
「【信月】も同じ意見か?」
「あいつが殺しに来るとすれば俺かお前だろうな」
「信樹も【可月】のこと嫌ってるよねぇ」
「俺はあなたの行く手を阻むものは嫌いですよ」
「さっすが、騎士様は言うことが違うねぇ」
クスクスと笑いながら、無愛は【文月】にとある手紙を持たせ、影夜たちに渡すように指示を出す。【文月】は八咫烏の姿となり、空を飛ぶ。警報が鳴るだろうがそちらの方が早く渡せるため、好都合だ。
「なんて書いたんだ?」
「いつどこで決戦やろーねって手紙」
手紙と言ってもいいのか分からないが、それを言うつもりは誰もない。重要なのはいつこの戦いが終わるかだ。
「日程と場所はどこなのですか」
「私たちの誕生日。場所は【月】にとって大切な土地だよ」




