65.
無愛は両手を挙げ、笑顔を史に向ける。
「どうやって連絡したの?」
「……これですよ」
史が見せたのは小型の盗聴器とGPS。無愛が接触するのなら史だろうと踏んで、史に青海が持たせたものだった。
「なーるほど。四六時中監視してるってワケだ。影夜が来たのは近かったからかな。それとも独断?」
「……一応聞くが、大人しく捕まる気は」
話すつもりはないと示し、無愛はその様子にため息をつく。
「ないよ。分かってるでしょ」
無愛は瞬時に振り向いて、自分に銃口を突きつけていた影夜に銃口を突きつける。影夜が撃ったとしても避けられる算段だった。何より、影夜が撃つのを躊躇うだろうという確信があった。だから動いた。
「私は戦いに来たんじゃないって言ったよね」
「銃持ってる奴のセリフかよ」
「護身用だよ。ここんとこ物騒だからね」
物騒にしているのはあなただろう、と言いたいが言ったところで変わるとは思えないため言わない。何より、無愛の詳細な罪状が分からない以上下手なことは言えない。
「というか、私が史殺すとは思わなかったの?」
「お前が史の能力を欲しがってるならしないだろうな。死体からは手に入れられない。それに、お前は過去二回で史を殺してないのを見れば殺害目的じゃないのは明らかだ」
無愛は何か考える素振りを見せ、そろそろかなと呟く。
「史屈め!」
「え?!」
史がとっさに屈むと、窓ガラスを割って何かが影夜を襲った。
「影夜さん!」
「民間人の避難優先! 青海たちに連絡しろ!!」
影夜を襲ったのは茨であり、外を見てみれば神父服を着ており、片手が茨に変形した信樹がいた。
「民間人がいればお前は簡単には攻撃できないだろう?」
「性悪神父が……」
影夜が無愛の方を見ると、笑顔で頑張れと手を振っている。無愛自身が戦うつもりはないというのは本当らしい。信樹の狙いが影夜のみなのは先ほどの攻撃で史を狙っていない時点で分かっている。影夜が出なければ信樹が周囲に危害を加える可能性もある。出るしかないだろう。
「いやぁ、こっちの騎士たちは過保護だねぇ」
「……何が目的なんですか」
史は無愛を警戒しながら青海たちに連絡を入れる。周囲が騒がしいため、連絡ができなかったとしてもすぐに来るだろうが。
「目的かぁ。そうだな……。君は種の起源はなんだと思う?」
「はい?」
「もっと分かりやすく言おうか。君は何故メノウが存在すると思う? 何故能力と呼ばれる不可思議な力が現れたと思う?」
メノウが生まれた経緯は影夜に聞いた。影夜の力の根源でもある人の負の感情などについて。能力は、多くの教授たちが「分からない」と言う結論を出した。確かに存在するが、人が死ぬとその能力は失われ、留まることをしない。そのため、能力に関する実験はできていない。
「鶏が先か卵が先かって話だよね。メノウが現れたから能力が現れたのか。それとも能力が現れたからメノウが現れたのか」
誰も解けない秘密を解明するのは楽しいだろう、と無邪気に笑う無愛に、史は何も言えなかった。無邪気に、自分の興味のために人を傷つけ、それに罪悪感を抱いていない無愛を、理解することができなかった。




