6.
話はトントン拍子に進んでいき、二人が退学して軍へ所属することに決まった。
「軍に寮があるから、そこね」
「部屋は二人で一つか?」
「いや、一人一つ」
「影夜、何、持ってけば、良い?」
とりあえずと何かを持っている無愛。影夜は「やらせなきゃ良かった」と呟き、二人の監視で来ている青海と笙人は本当に【死月の災厄】か、と疑う。
二人の反応はある意味当たり前だろう。
「必要なもの持ってこい」と言われて、普通衣服を持ってくるだろうに、パソコンなどの機器、軽食を持ってくるのだから。
「…………あんた、これを何年も面倒見てたの?」
「いや~、ほんと泣ける。あの【死月の災厄】って恐れられてた奴の実態がこれだぞ? 百年前と一切変わらん」
「もっとマシなの食わせろよ」
影夜が食べさせないと言うよりも、無愛が食べないのだ。
「人間の、食べ物、あんまり、美味しく、ないんだよね。お菓子、とかは、別、だけど」
「またそれ食ってるのかよ。やめろ」
「一番、楽だし」
「随分と不健康生活送ってるのね」
(ほぼほぼ無愛のせいで)遅れも出たが、無事二人とも軍の寮への引っ越しが行えた。
「来なさい。メンバーに紹介するわ」
「あのとき、いたのじゃ、ないの?」
「あと二人かいるのよ」
寮は各隊に振り分けられているため隊の者以外に聞かれることはまずない。安心して二人の正体をこの隊のみで共有できる。
「俺ら含めて十か」
「………こいつが」
「あの【死月の災厄】……」
「あんた、シャキッとしなさいよ」
「無愛はこれが通常だ。諦めろ」
しっかりと隊服に身を包んでいる影夜とは違い、無愛は隊服を着崩している。
「ブカブカ……」
「無愛が小さいんだよ」
「中一って言われても納得できる身長だからな」
「それが一番小さいから我慢しなさい。あと着崩れさせない」
何も知らない者が見れば、隊員たちが無愛を囲んで脅しているようにも見えるだろう。囲っているからというわけではなく、ただ単に無愛が小さすぎて子どもを大人が囲っているようにしか見えない。
「………隊長、そろそろ話をしてもらっても?」
「名前と能力言ってくか」
「あんたら、ちゃんと全部言いなさいよ」
(まぁ、そうなるわな)
(面倒…)
本来、一人一つとされている能力。けれど、ある方法を用いれば、複数所持が可能。
「『死して現世に戻りしモノ。人為らざる力を得、救済へと導きゆくだろう』。あなたたちの隠れ家にあった書類に記載されてたもの」
「これが事実なら、お前たちは複数持っているだろ」
二人が前世で調べていたことの一つ。
「……あそこがバレてるのか」
「まぁ、手数、バレても、問題、ないけど、ね」
二人からすれば、バレたところで支障はない。
「そっちから頼む。俺ら先だと情報量多いだろうし」
「……それじゃ、知ってるだろうけど、私からするわよ。綾野青海、今はここの隊長やってる。能力は【重力】。説明はしなくても分かるでしょ」
「出世、したね」
綾野青海。【死月の災厄】と対峙した当初は国防軍第一部隊の隊員であり、【死月の災厄】の死後、その功績から隊長となった。
「御崎笙人、副隊長だ。能力は【電波】」
御崎笙人。青海と同じく【死月の災厄】と対峙した当初は国防軍第一部隊の隊員であり、【死月の災厄】の死後、その功績から副隊長となった。