41.
質問の意味が分からず硬直する史をジッと見る慧斗。
「誰って言われても」
あの子どもとはつい先ほどはじめましてのため、どう表現すべきか分からない。
「言い方を変えましょう」
話が進まないと思ったのか、別のことを聞いてきた。
「先ほど、何故何もないところに話しかけていたのですか?」
「え……?」
何もないところと言うのは自分が目を離したときに子どもがいなくなってたところのことかと思い、伝えてみるが、慧斗は史が掲示板の前で立ち止まったところからずっと見ており、一人で話していた様子を見たと言う。
「小さくて見えなかったんですかね。子どもがいて」
「子ども?」
「はい。その子に質問されたのを答えまして」
何を聞かれたのかを答えると、慧斗は満足したようで、
「私は以上ですね」
「えっと、帰っても……?」
「それは分からないです」
慧斗が史の後ろを指し、そちらに目を向けると、慧斗と似たような服装の人物がいた。
「彼は私と同じ軍の人物で影夜。まぁ、雰囲気が怖いですよね」
「そいつが?」
「えぇ。姫の接触者です」
「あの、姫っていうのは…」
史が聞くと、影夜は話してないのかと慧斗を見る。そんな影夜にまだいいかなと思いましてと返した。
「……姫ってのは俺の妹のこと」
「姫さんってお名前なんですか?」
姫という字が付くのはよく見る名前だが、姫だけは珍しいなと思っていると、そう呼んでいるだけだと返ってきた。
「本名は無愛。前に喧嘩になって、探してるんだ」
「家出ですか……」
「家出……まぁ、そうだな」
史は聞いた名前に少し疑問を抱いたが、先ほど見た掲示板の人物とは別人だろうと考えた。
「時間取らせて悪かったな」
「いえ。その、見つかるといいですね」
* * * *
会話をする三人を遠くから眺めている一人の子どもと大人。
「……あれが目的の?」
「そのはずだよ」
「そうは見えませんが」
「侮ってはいけないよ。人間というのは、実に不思議な生き物だ。圧倒的強者にも立ち向かい、ときには勝利を掴み取る」
子どもは目を細め、影夜と慧斗を見やる。かつて、【死月の災厄】と恐れられた存在の側近たちを。
「それじゃあ、始めようか」
子どもが手のひらで転がしていた黒い球体状のモノ。大人はそれを見て、問う。
「アレは何者なのですか? 我々とも人間とも異なるようですが」
「………そうだねぇ」
少し考える素振りを見せ、子どもは答える。
「我らが王になろうとする愚者の傀儡かな」
「生命ではないということですか」
「大方、能力で人間に見せているんだろうね。アレも手に入れば動きやすそう」
「あのような玩具を迎え入れるのは嫌ですよ」
さすがにしないと子どもは返すが、大人は少し疑いの目を向けている。
自分の何回りも幼い子どもに付き従うのは、目的のため。その目的を達成するのに、子どもが必要というだけのこと。
「んじゃ、やりますかぁ」
子どもは手のひらで転がしていた黒い球体を投げ落とした。




