38.
無愛は遙翔にゆっくりと近づき、能力をいつでも使えるようにする。
「東遙翔。軍規定に則り、あなたを拘束する」
既に手数が尽きたのは一目瞭然。遙翔は抵抗する素振りを見せない。
青海たちに連絡を入れようと無愛が油断した一瞬の出来事だった。
「……は?」
目の前に飛び散る鮮血と、胸元に穴が開き、倒れる遙翔。
何がなんだか分からず、困惑している無愛を他所に、遙翔を攻撃した人物のモノであろう声が響いた。
《お見事でしたよ【死月の災厄】》
機械越しの声。それも機械によって声を変えているようだ。
「……遙翔?」
《使えない道具は処分させていただきました》
浅い呼吸を繰り返す遙翔は微かにまだ生きており、無愛は急いで止血をし出す。
ここで死なせては、影夜の意思を無視した意味がない。
「……ろ」
ほとんど聞こえない小さなモノ。それでも、無愛の耳にはしっかりと「逃げろ」と聞こえた。
無愛が負けると思っているのか、それとも自分を助けるなという意味なのかは分からないが、
「死ぬな」
たった一言。無愛は遙翔にそう言い、【空間】の能力で遙翔をどこかに飛ばした。
《死に損ないをどこへ?》
「……お前に話す道理はない」
無愛は少し辺りを見回し、声の出所を探す。
「…………これか」
遙翔を貫いたソレから声が聞こえた。
能力でそれを壊し、どうするかと考えていたとき、
「………何、これ」
最悪のタイミングで青海たちが来てしまった。
ここには届いていなかったが、恐らく警報が鳴っていたのだろう。
壊れている温室。ここの主である遙翔はおらず、無愛は血溜まりの前にいて手には血が付着している。
無愛が遙翔を殺したと、青海たちが思ってしまうのは、仕方がないことだろう。
「……青海、これは…」
違うと、否定しようとしたが止めた。
否定したところでどうなる。目の前にあるこの光景こそが事実だ。何も知らない青海たちが、果たして無愛を信じるのか。
いつも無愛の味方である影夜と慧斗はここにはいない。今は独り。
(……あぁ、そうじゃん。ちょうどいい)
無愛はいつか、何も言わずに影夜の前から消えるつもりだった。自分が枷になっているのなら、消えてしまうべきだと。
この状況を使わない手はない。
「無愛、遙翔はどこ」
青海の問いには応えない。応える必要がない。
「……死んだ」
「死んだって、あのチートがか?」
戸惑いを見せる尊たちを無視し、無愛は【空間】の能力でどこかに繋いだ。
「…東遙翔は、私が、殺した」
「なっ!!」
「ちょ、あんたそれ本気で」
「邪魔、だったし」
悪役になるのならば、恨まれるように、憎まれるように。
「これで、昔みたいに、楽しく、殺し合えるね」
無愛はかつての、【死月の災厄】のときと同じような笑みを浮かべ、【空間】の能力で繋いだ場所へと消えていった。




