30.
青海たちの疑問に答えが返ってくることはなかった。
「……ん、ただいま」
森の奥から無愛が戻ってきたためだ。
「【腐月】は」
「嫌、だって」
あちらでの話は決してこちらには聞けない。
【腐月】……白夜に命じたことが伝わることはない。
影夜の話したことが無愛に伝わることもない。
「じゃ、帰るか」
「え、いいの?」
「無理やりは無理だろ。無愛が説得できないなら来ねぇよ」
無愛に絶対的な信頼を寄せている彼が来ることを拒むということはそうした方がいいと判断したということ。
そう考えた影夜は、白夜がここに残るのが最善と見た。
「つっても、できれば【月】の一人はこっちにほしい」
影夜からしてみれば、【信月】と戦う可能性が高く、知能を持つメノウとの戦闘も視野に入れるべき。
サポート向きの能力持ちが多いこのメンバーではリスクが高い。
「【双…」
「やだ」
「絶対に無理です」
無愛が言い切る前に拒否する影夜と慧斗。
「何、そのそうなんちゃらって」
「そいつについて話すな」
「無理です嫌です。あんなのと手を組むのなら単騎でメノウの巣に飛び込みます」
無愛が名前を言おうとしたのは、影夜と慧斗とはかなり仲の悪い【月】。
二人からすれば、二度と会いたくない存在である。
「でも、戦力、なるよ」
「生命というのはときに利益よりも自身の感情を優先するんです」
絶対に嫌だという姿勢の二人に、青海たちは逆に興味を持った。
「どんなのなんだ?」
「すごい、なんか、元気?」
「いや、分からないって」
「二人で、一つの、【月】」
「その【月】がなんでお前らは嫌いなんだ?」
「性格が少し」
「合わない」
少し濁す慧斗とはっきりと言う影夜。
「二人で一つってのは」
「そのまま」
「あの二人、人間嫌いの権化なので無理ですよ」
味方になることはないというのだけは分かったが、やはり疑問はある。
「【月】って無愛が言えば協力してくれたりとかしないの? あなた【月】の姫サマなんでしょ」
「それ、一部が、勝手に、言ってる、だけだし。私と、影夜が、最初の、【月】なだけ」
前にも伝えたはずだと言う無愛に、そうだっけかと全員首を傾げる。
「記憶力……」
「人間短期記憶と感覚記憶が主だからね。仕方ない」
「それよりも、一度戻りませんか? いつまでも森の中はまずいので」
「そうね。一度戻って、長官に【月】の勧誘が無理だったことを報告しないとだし」
来た道を戻る。とても簡単なことだ。
【月】たちの住まう森でなければ。
「どんだけ長いの!!」
「【永月】のこれで……」
「十、四。あと、三回…………」
行きでは奥にあるからだと割りきっていたが、帰りはそうもいかない。原因が分かりきっているからこそ、こうもなる。
「こうも面倒だとは」
「前は、恩恵だった、けど、今は、すごい、大変」
「能力の使用禁止ってまず何。あんたらどんな生活してたのよ」
「悠悟の能力で俺らは大丈夫だったんだよ」
それも【月】がいなくなってしまった今、効力を失い、【永月】の力のみが作動している状態となったのだった。




