29.
「メノウを完全に?」
「正確には、前に話したメノウの移動だ」
「メノウを生物のいない場所に移動させるだかなんだかの?」
メノウ研究所に行く前に話していたモノ。
「【傲慢】たるソレはかつて神に叛逆した存在。【正義】たるソレは悪を討たんとする存在」
神話でも語られることが多く、多くの者が名を知る二対の天使。
「メノウとは、欲望や感情で生まれ、実態と化する」
影夜たちの親たる知性あるメノウは、大蛇の姿だった。
「何故神と呼ばれた存在が悪魔となったか知ってるか? 何故聖獣と呼ばれ、母なる海を統べる存在が、悪魔となったか知ってるか?」
等しくそれは、人間のせいだった。
「豊穣の神は己を否定する人間により存在を変えられた。海を統べる聖獣はかつて人の祖を貶めたモノと同義とされ存在を変えられた」
豊穣の神は醜いハエの王へと。
海を統べる存在は人を食らう大蛇へと。
「………つまり、何が言いたいの?」
「【傲慢】と【正義】は天使の姿が一般。そして、知性がある」
能力の詳細は不明。しかし、一つだけ分かることがある。
「俺たちの親であるメノウは、知性あるメノウは人の姿になれると言っていた」
「………え、じゃあ」
「人間社会に紛れ込んでる可能性がある」
世界人口が八十億以上である現代。その中から人に化けているメノウ。さらには【傲慢】【正義】の二体を見つけるのは、不可能に近い。
「現実的ではない。だが、できないこともない」
「いや、どうやってやるの。紛れ込んでるんでしょ?」
「無愛がいるとメノウが多く集まる理由分かれば簡単だ」
そう言われても、理由なんて知るはずもないのだから、分かるはずがない。
「メノウとは、人の負の感情と欲望。故に、姫たちにも無論それが当てはまります」
「俺は【夜】。かつて夜は物の怪の世界であり、人は恐怖を抱いていた」
影夜の能力【暗闇】は、夜を再現することが可能なほどの暗黒を生み出す。
「無愛は?」
【崩壊】【空間】【剥奪】【再生】。
計四つの能力。そのどれも、人が恐怖するモノには思えない。
「………死」
「え、それ入ってなくない?」
呟いたのは、ゆらだった。
「【崩壊】は生物に使えば死にますし、【剥奪】は命の剥奪ができるのなら殺せます」
「じゃあ、無愛は【死】が?」
「人は死を拒む。生に執着し、抗えない生命の終わりを否定する」
生命が最も恐れるもの。それが死であり、死を恐れる感情によって生まれたのが無愛、【死月の災厄】だった。
「生物を殺すことに特化した能力。対メノウのために造られた人造メノウ。それが俺たちだ」
生物としてではなく、兵器として造られた存在。
「………どうやって、脱出したの」
兵器として、違法な手段で造った存在を、簡単に逃がすとは思えなかった。




