貴族の朝食
他所で一年以上前に掲載した物(既に削除済み)の焼き直しです。
タイトルも展開も変えています。
「聞いているのか、ロザリア!」
「もちろんですわ、お父様」
嘘です。半分聞き流しています。
ここは王都のシモンズ伯爵邸。
今は父と娘の二人、心温まる家族のふれあいの朝食時間の真っ最中である。
「お前は私の血を継ぐ由緒正しい貴族なのだぞ!」
「……」
その由緒正しい貴族を市井に放逐していたくせによく云うわ。
お金以外は結構自由な平民から訳のわからん束縛の多い貴族にされて喜ぶ訳がないだろう。
私は父のお小言を表情筋を動かさずに右から左に聞き流した。
「事情については色々と説明しただろう」
私の心の呟きは聞こえるはずが無かったのにお父様はしっかり反応した。
もしやこれが貴族の特殊能力なのだろうか。
「……あの説明ですか? 理解はしていますけど納得はしていないのですが」
「いこうがいくまいが! お前は! 今! 現に! この屋敷に! 居るのだ!
居るからには貴族の娘としての義務を果たせ!」
「はいはい、わかりました」
「返事は一度だ!」
「へーい。あらやだ失礼、オッホホホ」
「ぐっ……ああ云えばこう云う。口の減らん奴め」
口は減らないがお腹は減る。
お父様を軽くいなした私は朝から大量の食物を胃に流し込んだ。
貴族になって良かった事と云えば贅沢で美味しい食事が食べられる事くらいだ。
いくら食べても太らない体質だったのに体重が2キロ程増えてしまった。
実の娘と縁を切っていたからといっても別にお父様を恨んだ事は全く無い。
お屋敷の使用人として働いていた母に手を付けたお父様は正妻の怒りを買った。
その結果、母を伯爵邸から放逐した訳だが十分な手切れ金を渡してくれたのだ。
幼子の私を連れた母が義父と巡り合った後、繁盛する料理屋を港町に構える事が出来たのはそのおかげだった。
不満があるとすれば縁を切った筈の私の籍を平民から伯爵家に戻した事くらいである。
そもそもの原因はお父様が商売の絡みで旅行を兼ねた視察に家族そろって異国に出かけた事だ。
正妻と跡継ぎであるその息子達が偶々特殊な流行り病に罹ってしまったのである。
その結果、自分以外の家族全員を喪う悲劇に繋がってしまった。
妻も長男も次男も一気に失ったお父様は半年程絶望と苦悩の日々を送った後、もう一人自分の血を分けた子供がいる事を思い出した。
即ち、私の事である。忘れたままで良かったのに。
「お前にはこの伯爵家の未来がかかっているのだ。よもやその事を忘れてはいないだろうな」
「もちろん、忘れてはいません」
興味無いですが、と心の中で付け加える。
婚姻による平民の貴族入りはともかく爵位は先祖代々の血を継ぐ子供だけしか継承出来ない。
養子は論外なので子供が居なければお家消滅になって王家預かりの上、存続している他の貴族に領地が下賜されてしまうのだ。
要するに伯爵家に出戻りした私の任務(?)は、いい男を捕まえて優秀な跡継ぎを作る事であった。
(伯爵令嬢っていっても平民出戻りだし変に無理しないで生きたいんですが)
勿論、こんな事は絶対言えない。
今となっては唯一の実子にそんな事を云われたら今度こそお父様は自殺してしまうかもしれない。
娘としての愛情は今一薄いけれどもどこか憎めないこの実の親にそんな事をされたらやはり嫌だ。
親孝行だと割り切って我慢するしかない。
ただ正直に言うと私にとって伯爵家の存続問題なんて興味が無いのだ。
爵位なんてほっぽり出して平民になればいいんじゃないかとまで思う。
しかし勿論お父様の頭の中にそんな考えは無いらしい。
所謂、高貴たるものの義務という奴だ。
正妻以外の女性に手を出す人格なき下半身を持つ御方が云う事かと思わなくもない。
「……うむ、ちゃんとわかっていれば宜しい。
いいか、誇り高き貴族令嬢として学園で存分に学び自分を磨き人脈を築くのだ。
そうすればいい男との縁談も組みやすくなる」
「わかりました。行ってきます」
一応素直に答えて席を立つ。
誇り高き貴族令嬢は男あさりに王立学園に行くものなのだろうか。
いささか疑問に思いつつ私は学園に登校した。
やる気次第なので更新は多分不定期になります。