78 決心
「この観覧車何回目だっけ?」
アンナは、一度、遠くに見える街明かりを眺めてから、サトルの目をまっすぐ見た。サトルの茶色の虹彩が、何にもたとえられないほど好きだった。
「えっと、4回目?」
「残念、5回目でした。秋の夜長とはよく言ったものね……17時過ぎで、もうこんなに暗い」
「秋の夜長なんて言葉、アンナには似合わないと思っていたけれど、何故か今、シックリきた」
「サトルくんって、時々、デリカシー無いよね。」
「あ、ごめん。アンナちゃん」
「そう、そうやって、ちゃん、を言って誤魔化そうとする。その後、髪をぐしゃぐしゃする。まあ、そんなことはいいんだけどね……話って?」
サトルは二人の為という、素晴らしい気持ちを持って、まっすぐに言った。
「進路!!」
アンナは、心のベクトルを内側に向けるように、一度視線を落としてから
「私達はどうやら、違う進路になるようね……」
「そう!!ぼくは、アンナが好きだ!!大事に思ってる」
「うん……私だって、そう。サトルくんと付き合ってから、1日足りとも忘れたことは無かったわ」
「ぼくもそうだ!!だから……今後どうやって、大学に入った後も、付き合っていけるのか、ずっと考えていたんだけど……」
「んっ……」
「そうなんだよ……ぼくは芸術に対して、今以上に夢中で取り組むことになる……何度もやってくる分厚い壁も情熱によって、溶かして、進まないといけない」
「環境も変わるし……」
「それは、つまり……アンナを忘れてしまう日が来るかも知れないんだ」
「うん……サトルくんのことは、私だって、ちょっとは分かってるわ」
「ぼくはアンナを束縛したくないし、ぼくがぼくを束縛したくない」
アンナは毅然に振る舞っていたが、気が付いたら、吐き出したほどの涙に溢れていた。観覧車から望む景色は、涙で滲んで、光の水溜まりのようになった。
「……分かった」
アンナは投げ捨てるように言った。サトルのパーカーも涙でポタポタと濡れている。今日も多くの人々を乗せている観覧車は一周して、止まることなく、新たな周回に入っていった。二人は観覧車から降りた。




