76 ミクロ
20××年9月2日
加藤悟
「ミジンコの独白」
作:加藤悟
ぼくはミジンコ。
ご想像通り、とんでもなく小さな生き物さ。
力もほとんどないんだ。折れそうで羽のような手をパタパタするだけ。いわば、最弱種。それなのに、たまに、ミジンコ同士で、大きいだの小さいだの言い合っている。本当にとんでもなく小さいでしょ。
そういえば、この前メダカさんが言っていた。
「亀さんは、素晴らしいよ。あの上の方にある光のてっぺんに行って、飛び出しちゃうことができるんだ。あんなことできるのは、亀さんしかいないよ」
ぼくは、この話を聞いたときに、充分メダカさんも大きくて素晴らしいのにと、思ったんだ。この川のなかでも、隣の芝生はどうやら青いようだね。
それから優しいドジョウさんとは
「この川のなかで無料で暮らせているよね?だから、ぼくは無料でいつでも素敵なお話やご奉仕をするんだよ。それがこの川への恩返しってやつだからね」
「ドジョウさんは、本当に素敵だね」
「そんなことないよ。ミジンコさんみたいに、透明になりたいものさ。その羽のような手も素敵じゃないか」
それと不思議な雰囲気のオイカワさんは、びっくりすることを言うのさ。
「ミジンコさん、素敵ね。私もミジンコさんのように、小さく、かれんになりたいわ。ミジンコさんになってから、いつまでも、あの石の下に隠れるの。永遠の詩を書いては捨てて、書いては捨てていたい」
シジミさんとはこんな話をしたよ。
「ミジンコさん、ぼくに食われるがいい」
「げ!?シジミさん、それだけはよして」
「え~だって、ぼくもお腹が減ったもの」
「じゃあね、代わりに良い話をするから」
「なに?良い話って。千夜一夜物語でもする気かい」
「そんなことじゃないよ。ほら、反対側向いたら、おいしそうな藻が浮かんでるじゃないか」
「本当かい?ミジンコさんは、思ったよりも良い奴だね」
シジミさんが、後ろを向いている間に、ぼくは逃げたのさ。悪く思わないでくれよ。ぼくだって、もう少し生きていたい。
気分屋のゲンゴロウさんの近頃は、こんな感じだったよ。
「はあ、早く死にたいよ。死んだらさ、綺麗なところに行けるから」
「そうなんだ。綺麗なところね~~」
「そう。そこは、綺麗なだけじゃなくて、食べるものにも、困らないし、苦しみも無い楽しいところなんだ。」
「へぇ~、そうなんだ」
「あ、やっぱ生きよ。面白いことを見つけちゃったもんね。」
「もうちょっとゲンゴロウさんと話していたかったから、ぼくは嬉しいよ」
「ありがとう。まあ、遅かれ早かれ綺麗なところには行けるからね。面白ければ良いのさ、じゃあね」
「あらまぁ。また会おうね、必ずだよ」
「いいかい、ミジンコさん。必ずなんて、この世界のどこにも無いんだよ。では、また会おう」
メダカさんが憧れていた、亀さんとも直接話をすることが出来たんだ。亀さんとは、意外にもこんな展開になったんだ。
「暗い人は幸いです。暗かった分、本当の明るさを知るからです。中途半端に暗いと、中途半端な明るさになります」
「ほうほう」
「けれども、中途半端もいいものですよ」
「え、ぼくには亀さんが言っている意味が分からないや」
「じゃあもっと簡単に言いましょう。あなただけが決めたことは、あなただけでどんなに小さくとも、先ずはやることです。そうしたら、今より、ちょっとだけ幸せになれます。そのちょっと、ほんのちょっとを、大事にして、続けていくことです。」
「へぇ~!そういえば、あの光のてっぺんの先には、何があるの?」
亀は光のてっぺんを見上げながら言った。
「そうですね。その光はまんまるで、とても強い光を放っておりますが、見上げると何故か元気が出ます。でも、この光がなんなのか私にも、よく分からないのです。言えることは、とてつもなく大きな世界があります。それと肌や毛孔に流れてくる水がありますが、それはとても心地良いものです」
「亀さんがうらやましいなぁ……」
「ありがとうございます。ですが……亀には亀なりの悩みがあるものですよ。」
「いや、、ぼくたちミジンコの悩みに比べたら、亀さんの悩みは輝かしいものです。ぼくたちは、こんなにも小さいのに、競争したり、勝負したり、喧嘩したりするんですから」
亀は突然声高く笑い出した。当然、その場に居た、ミジンコは少し、吹き飛ばされた。水圧というものだ。ミジンコは、不思議なことに、いつもより川や泡沫が澄んだように感じた。
「ハッハッハ!十人十色と云えども、それはどの生き物もどの世界でも同じことですよ!!」
「じゃあ、喧嘩するほど仲は良いいものなの?」
「ミジンコさんもなかなかメランコリックなものをお持ちのようですね……そうです。ですが、程度を越せば、危険な領域に入ってしまいますよ。」
「そっか!何事もほどほどが良いんだね!ありがとう亀さん」
「ミジンコさん!ほどほどほど難しいものはございませんが……」
ぼくはミジンコ。
ご想像通り、とんでもなく小さな生き物さ。




