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61 配慮

20××年6月30日

加藤悟


 人は自分がやってきたことを正しかったんだと、納得したくなったり、それを他の人々に証明しようと汗を流す時がある。それは悪いことではないし、否定はしない。ただ、ぼくが危惧するのは、それによって、強い主義主張になってくると、せっかく出会えた縁を台無しにしてしまう恐れがあること。それが心配だ。コミュニケーションだけの話ではないが、花が突然咲かないのと同様で、だんだんと話をしていく方が、喧嘩別れのようなことは起きないし、融合の花が開花する前に、栄養不足になるようなことは無いと思う。また、腹六分目や四分目あるいは二分目だけでも通じ合うことが出来たのなら、それで満足すること。そういったことを心掛けると良いかも知れない。


 これについては体裁などではなく、せっかくの縁を徐々に花開かせようとすることであり、なんだろう?生命を大切にする【配慮】の話である。


 たとえば「蚊を殺さない人」がいるとしよう。その人は、蚊を大切に思って、自分が少し(かゆ)くなるぐらいだから殺さない、といった理由である。もう1人は「蚊を殺す人」であり、何らかの縁やシチュエーションによって、同じ場所で同じ時を過ごすシーンである。この場合、蚊がこの二人の間にプ~~ンとやってきて、「蚊を殺す人」が蚊を今にも叩いて殺そうとしているときに、「蚊を殺さない人」が防いで止めたとしたら、どうだろうか?「蚊を殺さない人」は自身の正義を貫いたことになり、気を悪くしないが「蚊を殺す人」はビックリするか、非常に気分を損ねることになるだろう。このままいけば、場の空気が悪くなり、場合によっては、理解できないと、対立してしまうかもしれない。


 こういう場面において、ぼくが大事にした方が良いと感じているのは【配慮】である。配慮があれば、こういったケースで場の空気が悪くなることはあっても、盛り返すことができる。先ずは、他者本位に近い心積もりでいれば、このように咄嗟(とっさ)に出た、意識の違いや育った環境の違いというものを包み込むことができる。多少の衝撃や地震が起きても、この配慮という建物であれば、関係性が崩壊することはない。もしかしたら、配慮の次の段階が【おもてなし】なのかも知れない。【おもてなし】は相手方をどう気持ち良く、さらに互いの関係性を発展させ、育むことができるかという、いわば先回りの配慮でもあるし、時代の趨勢(すうせい)に従って多少の変化はあるかも知れないが、大筋変わらないところであろう。


 こういった【配慮】が欠けた結果、その延長線上にあるのが、喧嘩や宗教対立、戦争だと、ぼくは思う。人々や自然や命を支える【素敵な配慮】はまさに愛そのものであろう。


***


『蚊』


1

血の匂いに誘われて

今日も一匹の蚊が

ぼくの部屋にやってきた

きみにとっては

ぼくの血が

たとえば

ハンバーグステーキのような

おいしい匂いがするのだろう

考えてみれば

ハンバーグステーキ屋さんに

行ってハンバーグステーキが

食べられないなんて

とても可哀想なことだ

しかも

嫌がられて

この野郎と

ぺちん、ぺちんと

得意気に

殺されてしまうのだから…

だから今日は

蚊にやさしくあろう

血を吸われたって

かゆくなるだけだい

存分に血を吸わさせて

それから

外に逃がしてやろう



2

まるで

きみは勇敢な哲学者のようだ

みんなの為に

真理の血が

欲しくて欲しくて

仕方がないのだろう

今日も真理の為に

一人捧げられたのさ

一人どころじゃないよ

歴史に名さえ残っていない

あの人達みたいに

星の数ほどの命を落としているんだ…

大丈夫

ぼくはきみを

外に逃がすから

外に逃げたら

脇目もふらず巣に帰るんだよ

寄り道しないこと

そして

新たな命を誕生させるんだよ



3

よし、ぼくの血をたらふく吸ったようだね

こんなにもお腹が膨らんでいる

なんだ、名残惜しのかい?

いつまでも

ぼくのそばにはいられないよ

ぼくだって

きみがいなくなるのは

寂しいけれど

きみには

きみにしか出来ない

お役目があるのだからね

ほら、行った

ほら、行った

あなたを

待っている仲間が

大勢いるのだから

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