60 共生
「私……どうしても毒気が強い本音に侵されてしまうときがあるの」
「そう…まぁ大丈夫だよ……毒を好む孔雀もいるから」
「へぇ……、そうなんだ」
「仏教では毒蛇を食べてしまう孔雀が信仰の対象とされているらしいよ」
「へぇ……」
「うん……ぼくも詳しくは知らないけど、スマホで検索してみれば、ある程度のことは調べられるよ」
アンナはすぐさま、ジーンズのポケットに入っているスマホを取り出し、検索した。夏が近づいている街はいつもより、少し、落ち着きがない。
「あら、本当だわ、孔雀明王?……魔除け的な存在でもあるわけね」
「そうみたいだね」
「う~ん……自分の弱点は、自分以外の誰かから見れば、弱点じゃないのかも知れないってこと?知らないけど」
「そういうことじゃないかな……。文豪のゲーテさんは、こう、おっしゃったみたいだよ。【恋人の欠点を美徳と思えないような者は、恋しているとはいえない】と……。そう、ぼくは、アンナのどんなところにも恋してるからね」
「ふ~ん……、まあ、いつものサトルくんらしいわ。私も、もしかしたら、贅沢に慣れすぎちゃっているのかも」
「贅沢って?」
「サトルくんが必ず私を大事にしてくれるでしょ……その愛情に胡坐をかいてる私がいるってこと」
サトルはアンナをその場で強く抱きしめた。
「ぼくの愛情のなかで、思う存分に、胡坐でも、あくびでもすればいい」
「……うん」
「ぼくは、アンナを飽きるほど、贅沢にさせてみせるよ」
「飽きるのは、ちょっと……ね」
「飽きればいいさ、そうしたら、とびっきりの新しいことをぼくが必ずプレゼントするから」
「ありがとう……、ちょっと嬉しい」
「はははっ!!ぼくは、アンナのちょっとがとんでもなく嬉しい」
アンナはサトルの腕のなかで、ふと気がついた。
「あ!そっか!!ちょっとを大事にすること!!できるだけ、小さな小さな、ちょっとを大事にすること!!そうしたら、何よりも、大きくなるんだわ!!はじめは、小さな種かも知れないけれど、大きな花や木になるように!!」
サトルは少女のようなアンナの素顔に触れられた気がして、よりいっそう愛おしく感じた。サトルは、街の風に揺れているアンナの髪にキスをした。
「そういうことだね……アンナ」
「サ…サトルくん……」
二人はしばらく抱擁した後、再び、歩き出した。今日も新しい音楽が流れる街のなかに、二人は融けていった。
***
「ぽえむが」
ぽえむが
いえやまちなかを
あるく、あるく、あるく
おどる、おどる、おどる
わらう、わらう、わらう
ぽえむが
うみやもり、やまのなかで
えがく、えがく、えがく
そだつ、そだつ、そだつ
うたう、うたう、うたう
ぽえむが
そらのにわで
はじけとぶ、はじけとぶ、はじけとぶ
おしろをたてる、おしろをたてる、おしろをたてる
いきをする、いきをする、いきをする
もえる、もえる、もえる
あめをふらす、あめをふらす、あめをふらす
ぽえむが
てんごくから
まいおりる、まいおりる、まいおりる
わいてくる、わいてくる、わいてくる
はなたれる、はなたれる、はなたれる
ひしょうする、ひしょうする、ひしょうする
ゆうぎしている、ゆうぎしている、ゆうぎしている
ぽえむが
ぼくやあなたのなかで
こどもになる、こどもになる、こどもになる
はだかになる、はだかになる、はだかになる
はなひらく、はなひらく、はなひらく
ひかる、ひかる、ひかる




