53 パッション
まさに星降る夜だった。サトルはこんな時に、1人でいるのは、野暮なことだと思った。なんの為に、こんなにも美しい夜があるのだろう、と。きっと、ひとりじめするためではなく、誰かと共有するためにあるんだ!こんなときに、少しも愛というか、関係性を深められなければ、アンナの彼氏失格、いや、芸術家失格じゃないかと。人間には有限な一面もあるけれど、無限の一面だってある。無限の可能性を簡単に否定する人達もいるけれど(傷が深いのだろう)、それじゃ、サトルの人生がツマラナイ。あとは、精神や生きざまを無限にフォーカスするように修養するんだ!いてもたってもいられなくなったサトルは、ついに、アンナに発信した。
「どうしたの?こんな時間に電話して」
「世界で1人しかいないアンナ……、今どこにいるの?」
「どこって……、私の部屋」
「そっかぁ、なら良かった」
「へぇ~、世界で1人しかいないサトルくん……、ついに束縛してくれたのね」
「な、なんだよ、それ!」
「鈍感なんだから」
「生存確認だよ、生存確認(ヤバい、照れ隠しが下手だった)」
「生存確認?(意外と素直じゃないところがあるんだから!)はい、こちら菅谷杏奈、異常はありません。加藤悟さんはどうですか?」
「はい、こちら加藤悟。異常あり、異常あり。杏奈に会いたい病という、不治の病に罹りました」
「ああもう……、サトルくんったら、日付け変更してるから、今日会えるじゃない」
「今がいいの」
「ダメ、わがまま言わないの」
「今って言ったら今」
「ダメって言ったら、ダメ」
「だって学校で会ってもなぁ……、アンナの為に、周りの目を気にしないといけないし、もっと公明正大なお付き合いをしたいものですな」
「サトルくんはデリカシーに欠けてるのよ。ちょっとは我慢を覚えなさい、我慢を」
「はぁ……思った以上にスクールラブは険しい道のりだなぁ」
「まだ、5月よ。違うクラスになってから1ヶ月しか経ってないじゃない」
「まさに5月病でやんす」
「頼りないわね、サトルくんは」
「はい、もう、へのへのもへじ」
「意味分かんないわ……明日はまだ学校あるし、もう寝るね」
「えぇ~、もう寝ちゃうの?」
「もう、くたびれました……愛してるよ、サトルくん」
「あっ、気を使ったでしょ」
「じゃあ気を使わせないでよ」
「お別れのチューは」
「はいはい、電話ごしの……」
「……」
「おやすみ」
「おやすみっくすぜりー」
「今夜のサトルくんは、最後まで、意味分かんないね、バイバイ」
「バイバイって、ちょっと……今夜は星が綺麗だったね」
「サトルくんも同じ星を見上げてたのかな……おやすみ」
「……、おやすみ」
***
「薔薇」
深紅の香りは
自他のため
ここかしこを包みこむ……
薔薇のように
静かに凛と
咲いていたい
暗い夜でも
心のなかのなかには光
薔薇の棘は
清らかな命の約束を守る
やさしい棘
天の理と秩序を示す
ひとつなるうた
パッションと捨身によって
よりよい世界を創造する
悲しみは慈悲に
怒りは秩序に
依存は帰依に
苦しみは知恵に変わっていく……
ハレルヤ、ハレルヤ
1つも欠けることなく
全世界に幸あれ
時が来れば
深奥の声を口ずさみ
あまたの宙を震わせて
聖なる息を吹きかけ
神妙な命を蘇らす
深紅の香りは
自他のため
ここかしこを包みこむ……




