3 風
黄丹の西日がこの空や大気にその波紋を眇眇と広がらせるように街を包み、人々の心までも染めていく。風。風は古代文字のように、その形を変えることはない。流れてゆくものは、やがて水のように下へ下へ落ちていき、底辺にいる衆生に光源の杖を能え、それからは一蓮托生の花を咲かせる土台を築き上げる。
築かれていったものは、調和と美の福音を奏で、縁のなかでその色彩にとある透明な悦びをもたらしていく。色彩は、輪郭を司り、そこに雷音は初めて安らぎを得る。虹の金箔は、一縷の希望を歌い続け、地の顏は、季節の花々のなかで、踊り続けている。これらは星辰の彼方で手にとる感触を持って、蘇っていく。生死。死による憧憬。死の度に、生き生きとした木の梢に、鎮座する木霊を体感し、体感は直感に変身する。鋒には、余多の馥郁とした象や予感がほころぶ。
中心。青年の夜風は、チョコレート。聖女のモニュメント。酒。群盗。果物の口笛。
サトルは統合失調症気味になった。初めは脳汁が飛び出るほど激しいものであったが、好きな人を想い出す度に、緩和していくように、幸か不幸か思えた。それからサトルは次第に、頭・体・心、このバランスの重要性を裸のまま、感じるようになった。そして、自分自身以外の誰かの痛みが、ようやく、分かるようになった。天国の門は、外にもあるし、内にもあることが理解出来たのだった。