29 雫
サトルとアンナは都会からは少し外れた、観光名所の低山を登りにきた。今日のところは、人はそこまで多く訪れてない。シーズンとしてもやや外れているからだろう。二人は山の麓から軒を連ねて並んでいる店々を眺めながら、階段を上がり、スタート地点に向かっていった。まだ高く登っていないのに、店で働いている人々や『袖触れ合うも多生の縁』と呼ばれてるが、登山者を見ていると、何故か、心が澄んできたり、気持ちが高鳴ってくる。
「やっぱり、ここまで来るとなんか違うね」
サトルは、階段を登っているからか、やや息を切らしながら言った。
「街中じゃ吸うことができない、空気を吸っている感じがする」
アンナもやや息を切らしている。
「う~~ん、御神木とかはあるけれど、基本は山全体が御神体な気もしてくるよね。それと、やっぱり、登らせて頂くという敬虔な想いが大事だと思うんだ」
アンナはキョトンとした瞳でサトルを眺めてから言った。
「サトルくんの口から、山の天狗様の御言葉が聞けたわ」
「まあ、人は媒体となる瞬間があるかも知れない」
「憑依ってことよね?サトルくん、ひょっとして、憑依体質?」
「そうきゃもね、いずれ、根源の神様が憑依するかも」
「ははっ!!」
二人はこんなことやあんなことを話しながら、スタート地点に辿り着いた。スタート地点より先には、当然店はなく、段々と木々が遥かな空に向かい走るように、まっすぐ立っている。コースには、ところどころ木漏れ日も差しており、普段聞いたことのない、鳥達の歌声も聞こえてくる。
「ほいじゃ、行きましょ」
「しゅっぱ~~つ」




