28 興味
トモヤはややケダルそうに言った。
「勝負の世界に身を置いている人間って、ツラいよな」
サトルは思うところや感じることがあって、吊革から手を離し、少し髪の毛をくしゃくしゃと毟りながら言った。相変わらず帰りの電車は、少し、混んでいる。
「う~ん、そうだね。スポーツ選手の葛藤って、常人には分からないよ」
「そうだよなぁ。俺らが考えたところで妄想に過ぎないかも知れないけど、なんかなぁー、考えちゃうんだよ」
「分かる分かる。オリンピック選手が血の滲む備えや最高の努力をしつつも、金メダルは取れないことがあるみたいだからね」
「だからさ、簡単に言っちゃって、悪いんだけど、その時その時の状況がさ、その人にとっての金メダルなんじゃないの?」
サトルは共感し、嬉しくなって、手を叩いて笑った。
「形にこだわらなくても良いところは確かにあるよな!!」
「そうなんだよ」
「まあ、ちょっとマニアックかも知れないけれどさ、ギリシャ神話のアフロディーテっていう、それはそれは、美しい神様がいらっしゃるんだけど」
トモヤは車窓から望む、変わらない町並みをうっすらと見ながら、興味を持って応じた。
「なんか聞いたことがあるわ」
「そうそう。なんでも、美や芸術だけじゃなくて、戦いの神様でもあったみたいで……」
「あっ、なんかさ、一流の選手のプレイって、スポーツの域を超えて芸術のように見えるときない?」
「そ、そう!!そうなんだよ!!だからさ、やっぱ、なんか、繋がってんだよ!!!」
トモヤも少しだけ納得しながら言った。12月中旬はどうやら、七十二候では、閉塞成冬。
「サトル……ありがとう。本当にありがとな」
トモヤはサトルよりも、少しだけ早く、草臥れた車両から降りた。12月でたとえられる鳥達のさえずりが、サトルには聴こえたような、気がした。




