26 巡
「よっ、サトルくん」
「お、アンナ」
「今日は何しよっか?」
「この前は、海行ったしな~」
「行ったね~、楽しかったなぁ。特に、誰かの歌ばりにテトラポッドに登ったときとか」
「はっはっはっ!!あれね、アーティストのアンナ様」
「あれよ、あれあれ」
「じゃあ~~今日はまだ行ったことのないところに行こっ」
「サトルくん修正したまえ」
「何故?」
「行ったことのないところじゃなくて、や・っ・た・こ・と・の・な・いことにしよっ」
サトルは街中で今まで見上げたことのない、11月の空を見上げた気がした。接近して、指先でこすれあう2着のカーディガン。
「あれ、なんか変わったよ。アンナ」
「えっ、もう変わったの?」
アンナは目をまんまるくして、空を仰ぎ見るサトルの顔を瞠目した。
「うん、もうやったことのないことしちゃった」
「へ~~、サトルくん。いいなぁ」
「ほら、見えるだろ。あのジュゴンの雲が」
「今日も……今日も恥ずかしいことを平気で言えるサトルくんだね」
「ジュゴンの雲。恥ずかしいことなんかじゃない。アンナとぼくだけの雲なんだから」
アンナはサトルに、くっつき寄り添いながら、心のなかで呟いた。
「そんなとこも好き」
サトルは知ってか知らずか、おどけた表情でアンナを見つめたあとに言った。
「見えた?」
「まだ見えない」
「じゃあ~~、ジュゴンの雲が見えるまで、空を見続けよう!」
「首が折れちゃうよ、え……あれ!本当にちょっと見えた気がした」
「はっはっは!!」
季節は巡るもの。きっと、巡り巡ることで、永久の命に讃歌を歌っているのだろう。花は華やいだあとに、静かに宙に委ねて、花粉を飛ばして、やがて枯れ、見果てぬ地にその余多の命を植える。多様な花々が異なる季節に咲いて、一年中欠かすことがない。いつか必ず雨は渇いた地に降り注ぎ、地はその喜びを再び天空に還す。それぞれの色、それぞれの薫り、それぞれのアプローチにより、総合である天の在り方に捧げている。循環。季節ごとに染まっていく、あなたを見つめ、触れていたい。この流れる光の風と共に、いつまでもどこまでも。




