22 公園
二人は学校の帰り道で、電車の定期圏内のとある駅で降りた。学校の誰かに見られたくなかったからだ。もちろん、公明正大なお付き合いでも良かったのだが、今は、二人だけの息づかいで、小さくても物事を決めていきたかった。電車から降りて、駅とシームレスになっているショッピングモールに、二人は入っていった。
「あ!あのショップ、気になっていたショップ」
「そ、そうなんだ!せっかくだから入ってみる?」
「うんうん」
「じゃあ入ろ」
とあるレディースブランドのアパレルショップである。サトルとしても、アンナと一緒じゃなければ普段入ることがないショップなので、異世界感にやや緊張と興奮が入り交じる。
アンナは店内に入るや否やハッっとして、すぐさま、ある服に向かった。
「これ、どう?似合うかしら」
正直、どこかのドラマや映画のワンシーンのようだと感じたが、それを悟られまいと、ドギマギしながら言った。
「お、凄く似合うよ!かわいいじゃん」
アンナは少女のように、天真爛漫な表情を魅せてくれた。それから、その場でくるりと回って、鏡で自分でも確かめている。
「こ、今度、バイト始めるから、お金が貯まったら
、買ってあげるよ」
「お、サトルくん、男前じゃん!行こっ」
それからアンナは、そそくさと、元の場所にギンガムチェックのワンピースを戻してから、サトルの手を掴んで、店を出ていった。
ショッピングモールを抜けた先に、生彩を放つ商店街が見えてきた。商店街には多くの人々が行き交い、まるでルノワールが描く人々の絵のように楽しげだ。そうして、少し歩くと、団子屋が見えた。
「食べたい?」
「うん」
「じゃあ、買おう」
「アンナだけに、あ・んりがとう」
「ど、どういたしまして」
「ア・ンこでお願いいたします」
「ア・ン?こ、承知しました」
「飲みものは?」
「パインジュース」
「パインジュースは残念ながら、ここには売ってません」
団子屋のスタッフが機を伺いながら言った。
「いらっしゃいませ」
「アンコを2つ下さい」
アンナは小動物のようになって言った。
「あ、やっぱりみたらし」
サトルは苦笑しながら言った。
「すいません、アンコ1つとみたらし1つ下さい」
「はい、畏まりました」
二人はああだこうだと話しながら、団子を咥え歩いていった。歩いて賑やかな商店街を抜けていくと、少し大きな公園が見えてきた。公園の入り口に向かって、2つの影法師は進んでいく。
公園の木々の木葉が、風に揺られて、まるでさざ波のような音を立てている。夕焼けの日があちらこちらで、金箔が舞っているようによく集まっている。広い公園には、幾つかのベンチがあったが、二人は端のベンチに座った。
「スグルくんは、最近何にハマってるんだっけ」
「え、アンナ」
「何よ、それ」
「う~ん、そうだね……芸術かな」
「芸術?……サトルくんの口から芸術が出てくるとわ」
「ははっ!本当にそうだよね……でもやっぱり芸術なんだ」
「絵でも描くの?」
「いやぁ~~、どうなんだろうね……、ぼくが感じていることは今はアートとしてじゃなきゃ、表現できないんだ」
「そうなのね……なんか意外」
「ほら、ごらんよ。自然はあまたに生命を与える神様のアートそのもの。神様のアートまでいくと生きてるんだ」
「ちょっと分かるようで……ちょっと分からない」
「そう……こう感じられるようになったのもアンナのお陰だよ」
アンナはドキっとした。サトルの飾らない少年のような表情に。こんな表情も隠し持っていたんだ。
「サトルくん、ハグして」
サトルは満面の笑みと真摯なまなざしで立ち上がった。アンナも言ったはいいものの、ドキドキしながら立ち上がった。
「もちろんだ、アンナ」
「……サトルくん、ずっとこうしていたい」
「ああ……、いつまでもこうしていよう」
「本当に?」
「本当」
「本当に本当に?」
「本当に本当に……好きだよ、アンナ」
「菅谷杏奈もよ、サトルくん」
「……菅谷杏奈さん。加藤悟もだよ」




