第8話 おかしなかぐや姫とおさる
「偉文くん、次の人形劇で『かぐや姫』をやるんだよ。お話をもう少し面白く変えられないかな」
従妹の胡桃ちゃんが遊びに来ている。
彼女はいつも元気な小学生で、放課後クラブで人形劇をやっている。
人形劇でのかぐや姫の人形は、少し前まで壊れていた。
やっとその人形を直すことができたから、次の人形劇で使いたいそうだ。
「面白くっていっても……。かぐや姫がおじいさんとおばあさんとお別れして、月に帰って終わりだよね。そこも変えていいの?」
「うん。ラストも変えていいよ。ハッピーエンドにしてほしいの。できないかな」
「かぐや姫との別れの後、おじいさんたちは罠にかかったツルを助けるとか」
「ねぇ。『つるの恩返し』も結局お別れになるよ」
「そうだった。うーん、どうしようか。じゃあ、かぐや姫の後半はこんな感じにしよう」
* * *
美しく成長したかぐや姫のところに、5人の若者が結婚の申し込みをしました。
かぐや姫は『伝説の宝物を届けてくれた人』と結婚するといい、それぞれの若者に用意すべき宝物を伝えました。
求婚した5人の中に、成長して青年となった桃太郎がいました。
桃太郎は家に帰ると、さっそく手紙をしたためて仲間のキジを呼びました。
「大急ぎで、サルにこの手紙を届けてくれ。頼むぞ」
「サルにですね。わかりました。かならず届けます」
キジは手紙を持って、西の空へ飛んでいきました。
それから月日が過ぎ、かぐや姫の元に5人の若者が集まりました。
他の4人が順番に、かぐや姫に宝物を出しました。
宝物は『蓬萊の玉枝』『火鼠の皮衣』『龍の首珠』『燕の子安貝』。
しかし、それらは全部が偽物でした。
最後に桃太郎の番になりましたが、宝物を持ってきていません。
他の青年4人は桃太郎に向かって「おまえもうそつきだ」といって馬鹿にしています。
みんなに文句を言われながら、桃太郎は顔を伏せていました。
そんな中、ふと桃太郎は空を見上げて、「来てくれたっ」といいました。
空から1つの小さな雲が降りてきて、そこからサルが飛びおりました。
サルは黒い丼鉢のようなものを桃太郎に渡しました。
桃太郎はサルに礼を言い、かぐや姫のそばに寄って黒い鉢を差し出しました。
「姫、お約束の品です。これぞ天竺の御鉢。私と結婚してください」
「まぁ、この見事な黒い輝きは……これは確かにお釈迦様の御鉢。本物です。私はあなたと結婚しましょう」
こうしてかぐや姫は桃太郎と結婚して日本に残りました。
ふたりの間にはかわいい娘が生まれ、桃姫と名づけられました。
* * *
「ねえ、これって前の人形劇でやった桃太郎のお話の続きだよね。桃太郎のサルの正体が『そんごくう』って」
「観に来る子供たちも、ほとんど毎回いっしょでしょ。軽くナレーションで説明すれば大丈夫だよ」
「桃姫ちゃんって、スマートフォンのCMのあれ?」
「人形劇ではっきりいう必要はないよ」
胡桃ちゃんはお礼を言って帰っていった。
後日、胡桃ちゃんの妹の暦ちゃんからまたツッコミがあった。
「かぐや姫の時代がはっきりしないけど、たぶん三蔵法師が中国に帰ってから、ずっと後のお話だと思うんだよ」
「それでいいの。三蔵法師が天竺から持ち帰った荷物の中に、黒い鉢があったの。それか、孫悟空がお釈迦様に封印されてた時のエサ皿ってことにするかだよ」
「前の人形劇が西遊記の時期だとすると、今回の桃太郎の歳が謎なんだよ」
「実は桃太郎は外見はずっと青年のままで、実年齢はもっと……」
「その前の人形劇で赤ちゃんの桃太郎とかぐや姫が共演したんだよ」
「はっはっは。細かいことは気にしちゃいけないよ」