第5話 おかしなジャックと豆の木
「偉文くん、人形劇で使うお人形がまた壊れちゃったの。お話を少し変えられるかな」
小学生の胡桃ちゃんが、安アパートの僕の部屋に来ている。
今日も放課後クラブの人形劇の相談である。
胡桃ちゃんは、僕が本気で絵本作家になると思っているみたい。
僕が「絵が描けないから無理」というと「じゃあ、あたしが絵を描いてあげる」とか言っていた。
この子、なにげに絵がうまいんだよね。
さて、今度の人形劇のお話は『ジャックと豆の木』にするらしい。
後半で鬼が出てくるはずだが、前に桃太郎をやったときに全部ボロボロになってたらしい。
日本の鬼とは違うはずだが、桃太郎の人形劇で外国の鬼も使い、ハデな戦闘シーンで壊したそうだ。
今から作り直すのが大変なので、鬼を出さずにすむように話を変更できないか、という相談だ。
「じゃあ、豆の木が雲の上まで伸びている場面までは同じ。そこから少し変えてみよう」
* * *
ジャックは豆の木をどんどん登っていきました。
途中で疲れたので一休みしました。どのくらい登ったか確認するため、下を見てびっくり。
なんと、他の村人たちも豆の木を登ってくるではありませんか。
ジャックは叫びました。
「この豆の木は僕の物だっ! みんな今すぐ降りてくれっ!」
その時、ジャックは手を滑らせて、あっというまに落ちていきました。
しかし、豆の大きな葉っぱがクッションになりました。
何枚かの葉で跳ねながら、ジャックは安全に地上に降りることができました。
他の村人も面白がって葉っぱにダイビングしています。
その後、豆の木はその村の名所となりました。
ジャックは登りたい人から入場料を取ることにして、生活が豊かになりました。
* * *
「ねぇ。これって『蜘蛛の糸』の話だっけ」
「そう。ラストで前に『ごんぎつね』で作ったお坊様を出して、雲の上から見下ろす場面で終わればいいよ」
「わかった。ありがとー」
胡桃ちゃんは嬉しそうな様子で帰っていった。
その後、胡桃ちゃんの妹の暦ちゃんから、またツッコミがあった。
「偉文くん。『蜘蛛の糸』で雲から見下ろしてたのは、弘法大師じゃなくてお釈迦様だよ?」
細かいことはいいんだよ。