第4話 おかしなごんぎつね
「偉文くん、ごんぎつねって知ってる?」
そう切り出したのは元気な小学生の胡桃ちゃん。
僕の従妹だ。安アパートの僕の部屋に遊びに来ている。
「たしか僕が小学生だった時にも教科書に載ってたよ。今でも教科書で使われてるみたいだね」
「あの話を人形劇でやることになったの。役を増やしたいのと、最後をどうにかしたいの。悲しい話だから」
「ラストをハッピーエンドにしちゃうと、お話のよさが変わっちゃうけどね。まぁ、いまさらか」
たしか小説の作者が、地元の伝承をきいて作ったようだ。
元の話ではきつねは死んでないらしい。小説でもはっきりと死んだ描写はない。
僕は紙を取り出し、キャラクターを書き出した。
「主人公の兵十と狐のごんはそのまま。兵十の友達は今回カットして、ごんの友達のタヌキやウサギなどの動物を出そう」
「ねえ。兵十の友達の出番って、どんなのだっけ?」
「たしか、兵十の家に木の実や果物を届けられたことを、友達に相談しているシーンがあったと思うよ」
「ごんの友達の出番はどうするの?」
「まず、最初にごんがイタズラするシーンがあるよね。兵十の罠から魚を捨てるやつ。友達の動物たちは『やめようよー』っていう役」
「やめろというだけで止められなかったのね」
「あとは兵十のお母さんのお葬式のシーンとか、鰻を食べたがっていたという話を動物たちのセリフにするんだ。あと、魚屋さんに殴られるシーンも動物の会話で」
「あ、そっか。ナレーションの代わりね」
「で、最後にごんが撃たれるシーンはこんな感じでどうかな」
* * *
「ごん、おまえだったのか。いつも、栗をくれたのは」
ごんがうなずくと、兵十は銃を取り落とした。
「どうかしましたか? 家から鉄砲の音がきこえましたが」
兵十が立ち尽くしていると、家にお坊さんが入ってきた。
お坊さんの後ろから、森の動物たちも心配そうに覗いている。
「撃ってしまった……いつも食べ物をくれる優しいキツネを撃ってしまった」
「そうですか、かわいそうに」
お坊さんはごんの身体に手を当てると、少し首をひねる。
「このキツネ、血が出ておりませぬが、いったいどこに玉があたったのでしょう。もしや、外したのでは?」
「……え?」
ごんはゆっくりと目をあけた。不思議そうにキョロキョロしている。
動物たちは「よかったー」と言って、ごんの周りに集まってきた。
「これからはケンカせず、なかよくやるんじゃよ」
お坊さんは兵十に頭を下げると、家からでた。
手にもった鉄砲玉をぽいっと草むらに捨てて、歩き出した。
そのお坊さんの名は空海という。ふしぎな力をもつお坊さんだったのである。
* * *
「ねえねえ。空海ってすごい人なんだね」
「いろんな昔話で活躍しているよ。こんど教えてあげる」
胡桃ちゃんは僕にお礼を言って帰っていった。
数日後、胡桃ちゃんの妹の暦ちゃんからツッコミが入った。
「鉄砲がある時代に空海がいるのはおかしいんだよ。人形劇では、ちゃんと弘法大師にしといたんだよ」
細かいことはいいのっ。