表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第19話 おかしな猟師と木こり

 安アパートで独り暮らしをしている僕の部屋に二人の従妹が来た。

小学生の胡桃(くるみ)ちゃんと、その妹の(こよみ)ちゃんだ。

暦ちゃんは他の用事で来れないことが多いので、二人で来るのは珍しいかな。


 二人は放課後クラブの人形劇の相談にきたのだ。

次の人形劇の演目はまだ決まっていないらしい。


「ねえねえ。偉文(たけふみ)くん。鉄砲を持った猟師をお話ってどんなのがあるかな」


 前に『赤ずきん』の話で猟師が少しだけ登場した。

その人形を作った子によると、鉄砲を撃つような構えができるのが自慢らしい。

『赤ずきん』の時はそのポーズがなかった。

人形の手から鉄砲を外せないので、他のお話では使いにくいようだ。


「鉄砲か。『注文の多い料理店』はどうだろう」


 あれは鉄砲を持った狩人が主人公だ。

胡桃ちゃんは「どうかな」と考えている。

横で聞いていた暦ちゃんが口を開く。


「『注文の多い料理店』だと、人形は別に2ついるんだよ。今の人形は鉄砲を外せないから、人形は2人分必要だよ」


 それもそうか。服とかいろいろ外すシーンがあるし、面倒になるかな。


「じゃあ、二人とも日本昔話の『キジも鳴かずば』って知ってる?」


 女の子のお父さんが人柱になる悲しいお話だ。ラストで猟師が出る。

胡桃ちゃんは嫌そうな顔をした。


「ねぇ。知ってるけどハッピーエンドにしてほしいの」


「あれをハッピーエンドにするのはどうやっても無理だよな。他には『化け猫と鉄砲撃ち』っていう話があるけど」


 猟に出る前に、猟師の家で子猫が鉄砲玉の数を数えている。

その子猫は実は化け猫だったという話。ほぼ同じ内容で『汗かき鉄砲』という題名の話もある。

胡桃ちゃんはこの話は知らないみたいだ。暦ちゃんがつっこみをいれてきた。


「猟師の家のシーンがあるんだよ。家では猟師が鉄砲を離してないと変なんだよ」


「そうだねえ。そのシーンを後ろ姿にして観客から鉄砲を見えないように、ってのも難しいな」


「それに、作ってある人形が外国の猟師なんだよ。日本昔話とちょっと違うんだよ」


 人形に羽飾り付の帽子がついてて、それも外れないそうだ。

それだと確かに日本昔話では不自然かも。


「外国の話で鉄砲か。後は『ほら男爵』ってのがあるけど、これも服装が違うな」


 僕がいうと、胡桃ちゃんは「それいいかも」と言い出した。


「ねぇ、『ほら男爵』のお話の鉄砲を使うシーンだけ、猟師さんでできないかな」


 『ほら男爵』で鉄砲を使うシーンはいくつかある。

たとえば火打石がないため、火縄銃に火をつけられないという話。

代わりに自分の頭を殴って火花を出し、その火を使って銃を撃つ。

胡桃ちゃん達に説明したけど、反応がイマイチだった。


 他で鉄砲を使うシーンは……あれが使えるかな。


「じゃあさ、『金のおのと銀のおの』の木こりの人形があるよね。『ほら男爵』と組み合わせて、イソップ物語の『狩人と木こり』をやればいいんじゃない?」


 * * *


 木こりの親分と子分が木を切っています。

そこへ、鉄砲を持った猟師が通りかかり、偉そうに言いました。


「おい、そこの木こり。このあたりでライオンの足跡があったら教えてくれよっ」


 木こりの親分が答えます。


「ライオンを撃ちたいの? それならライオンの巣に連れてってあげるよ。ついてきな」


 すると、それまで偉そうだった猟師は急に震えだしました。


「え? いやあ、僕はライオンの足跡を探してるだけだから、巣はいいよ。あっはっは……」


「冗談だよ。ライオンってのは草原にいるもんだよ。こんな山奥にいるもんかい」


「え、そうなの?」


「猟をしたいなら、シカを仕留めてくれないか? ふもとの畑が荒らされて村の人が困ってるんだ」


「シカ? それなら僕にまかせろ」


 木こりの親分子分といっしょに、猟師は森の奥にいきました。

少し離れたところにシカが見えたので、猟師は鉄砲を構えました。


「あ、しまった。僕、鉄砲の玉をもってくるのを忘れた。何か丸くて硬いものない?」


 子分はポケットから何かを出しました。


「さっきサクランボを食べたの。ここにタネがあるよ。これなら硬いよ」


 子分は猟師の銃の引き金のあたりにタネを入れました。


 * * *


「偉文くん。この話の火縄銃だと、玉は先込式だと思うんだよ。鉄砲の先に玉を入れるんだよ」


「中込式でいいんだよ。暦ちゃん。猟師の人形は手を離せないんだから」


 先込式の場合、玉を入れた後、棒でつつかないといけない。


 * * *


 猟師はシカに向かって撃ちました。

タネはシカの頭に当たったようですが、倒せませんでした。

シカは森のさらに奥に逃げていきました。


「あーあ、逃げられちゃった」


 子分がいいました。が、親分は「大丈夫だよ」といいます。


「これで人間を怖がって畑を荒らさなくなったら、村の人は助かるよ。ありがとう猟師さん」


 こうして、猟師は獲物をとることなく帰っていきました。


 それから月日が流れ、村では変なシカのうわさが流れるようになりました。

山で仕事をしている木こりのところに、またあの猟師が現れました。


「やあ、こんにちわ。木こりさん達。あのシカのうわさは聞いてるかい?」


 猟師の言葉に親分と子分が答えます。


「ああ、へんてこなシカがでるんだってね」


「頭に桜の木が生えているシカが出たんだって。きっと前に見たあのシカだと思うよ。頭にあたったサクランボのタネが木になったみたいだな」


 猟師は鉄砲を構えました。


「今度は玉をいっぱいもってきたよ。あのシカは僕がしとめるんだ。じゃあいってくるよ」


 こうして猟師は山の奥に入っていきました。


 * * *


 説明を終えると、胡桃ちゃんがきいてきた。


「ねぇ。シカの人形は出さなくていいの?」


「作れるならいいけど、木こり達の言葉だけでも人形劇はできるよ」


 暦ちゃんもちょっと考えて言った。


「『花さかじいさん』の桜の木があるんだよ。『頭山』の話もできるんだよ」


 人形劇で落語の『頭山』をやっても面白くないと思う。


参考:暦ちゃんの豆知識


落語の演目『頭山』では、サクランボのタネの飲み込んだ人の頭に桜の木が生えるんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イメージソング:マリオネットショウ・ウィズ・パペット〔人形劇〕 [YouTube動画][歌詞]
i72fbzxv2ft51pjijavddiayelft_l7z_u0_mn_axbs.jpg

今回と同じ舞台のお話はこちら。
[K&K:胡桃ちゃんと暦ちゃん]

作者アホリアSSの別作品はこちら
新着投稿順
人気順
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ