第18話 おかしなウサギとカメとクマ
「ねえ。偉文くん、クマが主役の人形劇ってできる?」
安アパートの僕の部屋に、従妹の胡桃ちゃんが来ていた。
彼女は元気な小学生だ。
「金太郎の劇でクマが少しでたけど、あまり出番がないの。ごんぎつねのときも出なかったし。クマの人形を作った子がすねちゃってるの」
いっぱいあると思うけど、人形劇で使えそうなのは…… あれかな。
「あるよ。『ふるやのもり』ってお話。最後のシーンでクマのシッポが短くなるんだ。サルのパターンもあるけどね」
年寄夫婦の家にオオカミと泥棒がくるお話だ。
孫を寝かしつけるとき、おばあさんが「オオカミや泥棒より『ふるやのもり』が怖い」って言うんだな。
「あ、そのお話知ってる。動物をいっぱい出せるね。他には?」
「イソップ物語で『クマと旅人』っていうのがあるけど」
「ねえ、知ってるけど。短かすぎるかも」
「あとは『三びきのくま』かな。女の子がくまの家に迷い込む話」
観客が小さい子なら、『三びきのくま』がぴったりかも。
胡桃ちゃんも知っているようで、うんうんと頷いた。
「それ知ってる。でも、クマの人形は一つしかないの。『ふるやのもり』にしようかな。あ、それから今回とは別だけど、前に『ウサギとカメ』の話やったよね。暦が続編を作ってほしいって」
「あの子、無茶ぶりだなあ…… それじゃあ、『ウサギとカメ』の続編にクマを出そう。クマの人形にメガネをつけて『発明クマさんシリーズ』で行こう」
* * *
何度もカメに負けたウサギは、今度はカメと高跳びに挑戦することにしました。
高い木の枝から、一枚の札が下がっています。
その札は、ウサギでも飛びつくのが難しい高さにあります。、
ウサギとカメがジャンプに挑戦し、先に札に触った方が勝ちにしました。
「カメくん。ジャンプだったら、ぼくは絶対に負けないよ」
「うん。ぼくもそう思うよ。ウサギくん」
そこに何かを抱えたクマさんが来ました。
「カメくん。これはここに置けばいいのかい」
「あ、そこでいいです。クマさんありがとう」
「どういたしまして、ハチミツよろしくね」
クマさんは木の根元の、ちょうど札の真下の位置に何かを置きました。
「なにそれー」
ウサギが聞くと、カメが答えます。
「クマさんが踏切板を作ってくれたよ。ぼくが押さえておくから、ウサギくんが先に跳びなよ」
カメは踏切板の端に立って、しっかりと足で押さえています。
「わかったよ。じゃあ跳ぶよー」
ウサギは助走をつけて軽くジャンプ、踏切板に勢いよく着地!
同時に、シーソーの原理でカメが高く舞い上がり、ぶら下がった札にタッチしました。
* * *
「ねえ。いいんだけど。クマさんってカメさんに買収されてない?」
「気のせい気のせい。あと、観てる子供たちにわかるように、踏切板を作らないといけないけどね」
「そーゆーのが得意な子がいるから、多分大丈夫。お話はこれで終わり?」
「いや、『発明クマさんシリーズ』っていったでしょ。続きはあるよ」
* * *
ウサギとカメは次は『障害物競走』で勝負します。
栗の木がたくさん生えている森で、イガグリがたくさん落ちてる中を競争することになりました。
勝負の前の日、クマさんの家をノックする音がしました。
みるとカメがきていました。
「クマさん。はちみつを1びんあげるから、イガグリの森を進める道具をちょうだい」
「じゃあ、おもちゃの車の車輪をあげる。はちみつと交換ね」
カメは車輪を4つ、甲羅につけてもらいました。
カメさんが帰ってしばらくすると、クマさんの家をノックする音がしました。
みるとウサギがきていました。
「クマさん。はちみつを1びんあげるから、イガグリの森を進める道具をちょうだい」
「じゃあ、木のサンダルをあげる。はちみつと交換ね」
そして次の日、車輪をつけたカメとサンダルを履いたウサギが、イガグリの道をスタートしました。
ウサギの方が少し早く進んでいます。
あと少しでゴール! というところで風が吹き、木の上からポトポトとイガグリが落ちてきました。
「いたたた」
イガグリが頭にあたり、ウサギが転びます。転んだところにまたイガグリ。
つぎつぎに落ちてくるイガグリは、カメのところにも落ちました。
甲羅にあたりましたが平気でした。そしてカメは先にゴールしました。
* * *
「クマさんが一番得をしたわけね。ねえ、なんとなくだけど、クマさんはカメさんを応援してない?」
「気のせい気のせい。イガグリが落ちる描写がいるから。クリの木の背景セットも作らないとね。で、実はお話はもう一つ続きがあるよ」
* * *
次の勝負は平らで、まっすぐな一本道でかけっこです。
たくさんの動物たちもコースの横で応援しています。
クマさんがコースの横にロープのようなものを張っています。
作業をしながら他の動物たちに声をかけるクマさん。
「はーい。みなさーん。ここからコースに入らないでね。あと、危ないからロープに触ったらダメですよ。よいしょ……」
スタート地点にはカメとウサギが立っています。
そこへ、クマさんがロープらしきものを引っ張ってきました。
「クマさんありがとう」
カメがいいました。クマさんはロープみたいなものを横のクイに結びながら答えます。
「むぎぎ……。ああ、かまわないよ。ハチミツよろしくね。よいしょ、よいしょ」
カメとクマさんのやりとりを見て、ウサギは首をひねりました。
「クマさん何か変だね。そのロープって、そんなに重いの?」
カメはクイのすぐ横に立ち、そっとクイに手をかけました。
それをみて、ウサギさんは言いました。
「あ、わかった。それロープじゃなくてゴムなんだ。ずるいぞっ」
ウサギはあわててクイを掴みました。
そのとたん、クイはすぽんと抜けました。クイはカメとウサギを連れてゴールに向かって飛んでいきました。
ゴールの方をみて、クマさんが言いました。
「この勝負、引き分けー」
* * *
「ねえ、引き分けっていうより、クマさんの独り勝ちじゃないの?」
「気のせい気のせい。あ、飛ばされるシーンはほんとに飛ばさないでね。危ないから。いっかい上に跳んで、弧を描いて演台の後ろに隠れる感じで」
「うん。わかった。偉文くん、いつもありがとー」
胡桃ちゃんはアイデアのメモをとって帰っていった。
人形劇はクラブの人たちで話し合って『ウサギとカメ』の続編となったそうだ。
ゴムで飛ばされるシーンは、カメ役とウサギ役の『きゃー』という悲鳴でウケたんだって。
『ふるやのもり』は別の機会にやるそうだ。
その後、暦ちゃんからツッコミがあった。
「偉文くん。イガグリの話なんだけど、『チャーリーとチョコレート工場』の作者が書いた短編に似てるんだよ」
気のせい気のせい。