第16話 おかしな金のおのと銀のおの
「ねえねえ、偉文くん、次の人形劇で『金のおのと銀のおの』をやるの。でも時間が余りそうなのと、登場人物が少ないのをどうにかしたいの」
従妹の胡桃ちゃんは、いつも元気な小学生だ。
今日も安アパートの僕の部屋にきている。
彼女は放課後クラブで人形劇をやっていてる。シナリオの案をきくために、よく僕のところにくるんだ。
「登場人物は木こりと女神さまだけだよね。木こりに子分をつけてみようか。こんな感じかな」
* * *
むかしむかし、ある森で、木こりが子分をつれて、木を切る仕事をしていました。
木こりのおのは古くて、少しさびていました。
「親分。僕はもう疲れました。今日は木をあと何本切るんですか」
「あと3本だ。早く切らないと夜になってしまう。急ぐぞっ!」
「親分のおの、切れ味がわるくなってますよね。砥いだほうが早く切れると思うけど」
「こっちは忙しいんだ。おのを砥いでるヒマなんかあるか!」
木こりが大きくおのを振りあげると、おのは手から外れて飛んできました。
「あっ! まてー」
二人がおのを追いかけました。おのは近くにある泉にポチャンと落ちました。
すると、泉の中からきれいな女神様が現れました。両手に金のおのと銀のおのを持っています。
「あなたが泉に落としたのは、こちらの金のおのですか? それとも銀のおのですか?」
女神がきくと、子分は「え? 言えばもらえるの?」と小さい声でいいました。
「どっちでもありません。私のは木と鉄でできたおのです。忙しいので見つけたら教えてください」
「あなたは正直者ですね。ではあなたのおのをお返しします。わたしはあなたの誠実さに感動しました。こちらの金と銀のおのも差し上げましょう」
そういって女神は消えました。泉の横に3本のおのが残っています。
「親分、馬鹿正直すぎるよ。金と銀のおのもくれたからよかったけど」
「金や銀のおので木が切れるかっ! 今日中に木を届ける約束をしてるんだよ。馬鹿言ってないで仕事仕事! 急ぐぞっ」
木こりと子分は頑張って仕事をつづけました。その日は何とか予定通りの木を切ることができました。
次の日、仕事はお休みでしたが、子分はこっそりと自分のおのをもって森に入りました。
そして泉に「えいっ」とおのを投げ込みました。
「きゃー! 私に当たる所だったじゃない! こんなものを投げたのは誰よ!」
怒った顔の女神が現れて、子分に向かっておのを振り上げました。
「うわーん。ごめんなさーい!」
子分は泣きながら謝りました。
「あなたはあの正直者のお仲間ですね。せっかく来たんですから、この砥石を差し上げます。お仕事、頑張りなさい」
子分は女神さまから、おのを磨くのに使う小さな石をもらいました。
家に帰ると、子分は親分のおのを一生懸命に砥ぎました。毎日がんばっている親分の仕事が、もっと楽になってほしいと願いながら。
そして次の日。森の中でおのを切る音が聞こえます。
「すごくよく切れるようになったよ。おまえのおかげだ。ありがとうな。金や銀のおのより、こっちの方が私の宝物だよ」
木こりはそういいながら仕事をつづけました。子分もうれしそうに笑いました。
* * *
「ねえ。おもしろいけど、もう少し長くならない? あと、登場人物も」
「何本か木が倒れるシーンをいれるといいよ。登場人物は……最初の日に、商人に木を届けるシーンをいれるかな」
「うん、わかった。偉文くんありがとー」
胡桃ちゃんは手を振りながら帰っていった。
人形劇は今回も好評だったらしい。
誰が教えたのか、親分役は「ヘイヘイホー」と歌いながら切っていたそうな。
後日、暦ちゃんからのまたツッコミがあった。
「包丁じゃないんだから、もっと大きい砥石がいると思うんだよ」
細かいことはいいのっ。女神さまの砥石は小さくてもおのが砥げるの!