第15話 おかしな金太郎
「偉文くん、次の人形劇の題材は『金太郎』なんだよ。今あるシナリオは絵本のままだけど、もう少しヒネリが欲しいんだよ」
今日は胡桃ちゃんは用事があるらしく、妹の暦ちゃんが人形劇の相談に来た。
この子、苦手なんだよなぁ。
暦ちゃんは資料として金太郎の絵本や童話を持ってきている。
難しそうな金太郎伝説の資料とか御伽草子もあった。
『快童丸』って書いている歌舞伎のパンフレットまである。
暦ちゃん、ほんとに小学生?
「暦ちゃん。無理にヒネる必要はないと思うよ。人形劇を見に来るのは、ほとんどが低学年だよね。絵本のままでいいんじゃない?」
「それじゃあ、つまんないんだよ。鬼退治とか入れられない? 酒吞童子とか茨木童子とか」
「大人の坂田金時の話はやめようよ。舞台は足柄山で、少年時代オンリーでいこう」
「じゃあ、金太郎がいるところを鍛冶師の村にして、山の神と対決させるんだよ」
もののけ姫? 下手すると金太郎が悪役だし、人形とか背景を誰が作るんだ?
「暦ちゃん。坂田金時が鍛冶師の説はあるけど、それ足柄山じゃないよね。話が大きくなりすぎるし、子供向け人形劇でしょ」
「戦闘シーンを入れられないかな? クラブの男の子が喜ぶんだよ」
「なるべく人形を壊さないようにしようね。桃太郎と山の動物たちとのお相撲でいいと思うけど。そうだ。足柄山で化け物がでて、動物たちが困ってるって話にするか」
「金太郎の仲間にクマがいるんだよ。クマが怖がる化け物ってどーゆーの?」
「日本昔話だと、巨大グモとか大ムカデがポピュラーかな」
「あたしはどっちも嫌なんだよ。それ、お人形をみるのも嫌。別の化け物がいいんだよ。あ、これなんかどう?」
暦ちゃんが持ってきた資料に、巨大な鯉を捕まえる金太郎の絵があった。
「鯉でもいいかな。だけど、池にでっかい鯉がいたとして、森の動物たちが困るかなぁ」
「鯉を放置しておくと、滝を登って『龍の子太郎』になるから早めに退治なんだよ」
「龍になるんでしょ。他の理由づけは、鯉が悪臭を出して迷惑になっているとか、金太郎のお母さんが病気で、鯉の肝が薬になるとか……」
「なんかいまいちだよ。村の人とか動物とかが、襲われて被害を受けてるって話の方が面白いんだよ」
「池に近づくと襲われるってことにするか。鯉だと変だよな。大ウナギにしておくか。池から顔を出して獲物を飲み込むとか」
その後、暦ちゃんと意見をすり合わせながらストーリーをまとめる。
・金太郎と森の動物たちがお相撲をしている。
・そこにサルがきて「昨夜、池の近くで化け物を見た」と相談する。
・サルが手書きのイラストを見せる。首長竜が泳いでいるようにも見える。
・人形劇を見ている子供たちに「これなんだろう?」と問いかける。
・動物たちと一緒に化け物の正体を推理。
・金太郎と動物たちが力を合わせて大ウナギを捕まえる。
・噂を聞いたお侍さんが金太郎をスカウトしておしまい。
「うん。今回はこんな感じで大丈夫なんだよ。偉文くん、ありがとね。次回は舞台を京都に移して、坂田金時の……」
続きはやりません。