第14話 おかしなカチカチ山
「ねえねえ、偉文くん。いつも観にきてくれる子から人形劇で『カチカチ山』をやってほしいって、リクエストがあったの」
胡桃ちゃんが安アパートの僕の部屋に来た。
この元気な子は小学生で、僕の従妹だ。
放課後クラブで不定期に人形劇を開催していて、ちょくちょく内容の相談にくるんだ。
「『カチカチ山』で出てくるタヌキとウサギ、それにおじいさんとおばあさんの人形もあるんでしょ。できるんじゃないかな」
「ねえ、お話を少し変えたいの。最後にタヌキを殺しちゃうのはかわいそうだよ。助けて仲直りできない?」
昔話は残酷な話が多いんだよな。でも、絵本によって表現がソフトになっているパターンもある。
「タヌキが助かる絵本もあるよ。その場合は、おばあさんも無事なんだ。でもそれだと、タヌキに火をつけるのはやりすぎと思う」
「カチカチ山のカチカチって、タヌキの背負っている木に火をつけるときの音だったよね。つけないならカチカチ鳴らないよね。カチカチを火打ち石と違う感じでできないかな」
「そうだねえ。タヌキがイタズラして捕まって、お詫びにお手伝いをしてもらうかな。カチカチと音がする道具で」
「ハタ織り機?」
「ギー、バタン……。それだと『つるの恩返し』だね」
「じゃあ、糸車は?」
「カラカラカラ……。それは『タヌキの糸車』。別の話になっちゃう」
「あ、いいこと思いついた。茶釜に化けてもらうとか」
「『ぶんぶく茶釜』だね。囲炉裏でカチカチと音がするまで沸騰。そこまでやったらタヌキは死ぬよ」
「ねえ、その前に逃げちゃうよ。カチカチと音がする時計に化けてもらうのも……だめかな」
「カチカチと音がするタヌキ…… あれがあったな。昔漫画で見たんだけど、たぶん胡桃ちゃんは聞かない方がいいかも。すごく痛そうな話だからね」
「じゃあ、聞かない」
『狸地蔵』は言わない方がいいだろう。
キツネとタヌキが化け比べで、お地蔵さんに化けることにした。
タヌキは岩にしか化けられなくて、地蔵彫りの彫刻師がカチカチと……
「……うん、あれはやめておこう」
「ねえねえ。カチカチしないなら、ウサギさんはどこで出すの?」
「そうだねえ。タヌキがどんなイタズラをしたかだね。畑を荒らす。人を化かす。ポンポコと騒音を立てる。夜中にノックして逃げる例もあるか」
「ねえ。それ全部やったってことにして、化かされたおばあさんがケガをしたことにしようか」
いいかもね。元の話だとおばあさんが殺されている。
ケガだけですんだなら、タヌキが殺される必要はない。
「それでいこう。おばあさんの話をきいたウサギさんは、山でタヌキをだまして捕まえる。カチカチに縛り上げて、罰として頭の毛を刈ってつるっぱげにするんだ」
落語の『権兵衛タヌキ』に近いかな?
「ねえ。しばるのはガチガチに、だと思うけど。それでなんとかごまかせるかな?」
「大丈夫だと思う。で、タヌキにはお手伝いをさせて、許してあげるんだ。ラストはおじいさん、おばあさん、ウサギ、タヌキでいっしょにご飯をたべて、おしまい」
「うん、わかった。その案でクラブのみんなと話してみる。偉文くん、ありがとー」
胡桃ちゃんは元気に帰っていった。
後日、胡桃ちゃんの妹の暦ちゃんから人形劇の結果を聞いた。
ラストは暦ちゃんの案で少し変えたそうだ。
「最後はタヌキとウサギが床屋になって、山でお客をとることにしたんだよ。カチカチとハサミを鳴らす散髪の腕が評判で『カチカチ山』と呼ばれるようになったんだよ」
その手があったー!