第13話 おかしなマッチ売りの少女と王子
「ねえねえ。偉文くん、今度の人形劇で『マッチ売りの少女』をやるんだけど、これハッピーエンドにできないかな」
従妹の胡桃ちゃんが、安アパートの僕の部屋に遊びにきた。
今日も人形劇の相談にきている。
『マッチ売りの少女』のお話は、主人公の少女が天に召されて終わる。
「胡桃ちゃん。アメリカの絵本ではハッピーエンドのパターンもあるみたいなんだ。お金持ちの家に引き取られるんだっけ。僕は読んだことないけどね。あ、そうだ別の作者が書いた『幸福の王子』と合わせればいいかも」
『幸福の王子』は、町の広場に建っている王子の像とツバメの物語。
貧しい人のために、ツバメに頼んで自身の装飾物を配らせる話だ。
お話の中で、凍えながらマッチを売ってる女の子を助けるシーンがある。
胡桃ちゃんも『幸福の王子』の話を聞いたことがあるようだ。
「人形劇の途中までは『幸福の王子』の話をやるんだ。ツバメと知り合って、最初に病気の子供を助けるシーンまでやる。そこから続けて『マッチ売りの少女』をやるんだ」
「ねえ、『マッチ売りの少女』の話はどこまでやるの?」
「1本目のマッチを擦って、幻を見るところまで。そこから『幸福の王子』に戻るんだ。ツバメが金箔を配り終わるところまでやって、ラストはこうしよう」
* * *
王子の像は宝石も金箔もなくなり、みすぼらしい姿になりました。
その足元では、寒さで凍えたツバメが今にも死にそうになっていました。
町の人たちは、きたなくなった王子の像を壊そうとしています。
「こわせこわせー」と言いながら、棒を持った大人たちが像に迫りました。
その時、「だめー」という少女の声がひびきました。
人々の間から一人の少女が飛び出し、像の前に立って両手を広げました。
それは、元気になったマッチ売りの少女でした。
一人、また一人、少女の隣に人が集まります。
宝石で助けられた小説家や病気が直った子供、金箔で助けられた人たちも集まってきたのです。
マッチ売りの少女は、ツバメを優しく抱き上げました。
「夢を見たの。王子様とツバメさんが私を……町のみんなを助けてくれた。今度は私達があなた達を助ける番」
集まった人たちは、王子像がこの町の守り神であることを口々に訴えました。
そして、町の人たちは王子像を守り、ピカピカに磨き上げました。
ツバメは少女や町の人たちが世話をし、無事に寒い冬をこすことができました。
金の装飾も宝石もありませんが、王子の像は本物の『幸福の王子』になりました。
* * *
「偉文くん、いい感じだね。図書室で『幸福の王子』の絵本借りて、クラブのみんなと相談してみるね。ありがとー」
胡桃ちゃんはお礼を言って帰っていった。
後で人形劇の結果の話をきいた。だいぶ好評だったって。
ただ、シナリオのラストは胡桃ちゃんの妹がいろいろ改変したらしい。
王子像は金で塗りなおされた上に宝石も増えて、豪華絢爛になったそうだ。
どうすればそうなるの?
後日、暦ちゃんに聞いてみると、笑ってこう言った。
「大丈夫だよ。町の人は水銀を使わずに金色にしたんだよ」
町の中で水銀で金メッキしたら、環境汚染が心配になるか。
いや、そういうことを聞いたんじゃないんだけど。