第11話 おかしなだんごばなし
「ねえねえ、偉文くん。今度クラブでおだんごを作るの。人形劇でもおだんごを出したいけど、いい話はあるかな?」
従妹の小学生、胡桃ちゃんが僕に相談してきた。
だんごがでる話か。僕はこういう話を教えてあげた。
だんごを初めて食べた主人公が、帰り道に『だんご、だんご』と口ずさみながら歩く。
途中で小川をまたごうとして、『どっこいしょ』という。
その後は『どっこいしょ、どっこいしょ』と間違って口ずさむのだ。
僕が紹介したのは長野の民話だが、同じような話は日本各地にある。
お話によって『どっこいしょ』が『よっこいしょ』『ぽっとこせ』など、バリエーションが多岐にわたる。
この手のお話はお米があまり食べられない地域で伝えられているのが多いかも。
……という説明を胡桃ちゃんに話した。ただ、これだけだとすぐに終わりそうで、人形劇の時間を少し長くしたいらしい。
「それなら、同じ長野の民話でこういうのがあったよ」
* * *
おばあさんが、二階の物入れに上がり、瓶を下ろそうとしていた。
主人公に「お尻をおさえておいて」と頼み、主人公は「わかった」と返事。
おばあさんが手を離すと、瓶が落ちて割れてしまう。
「ちゃんと押さえておいてって、いったでしょ」
「おら、じぶんのお尻おさえてたよ」
* * *
「ねえ、おもしろいけど、すぐ終わるね」
胡桃ちゃんは首をかしげている。
「うん。それじゃあ、さっきのだんごの話の続きにして、こういうのはどう?」
* * *
主人公は、以前だんごをくれた隣町のおばさんの家に、お使いに行きました。
帰るとき、おばさんはだんごを箱に入れておみやげにしてくれました。
家に帰って、おばあさんの前で箱のフタをあけました。
すると、なぜか箱の中はカラッポでした。
「あんた、帰り道に全部たべちゃったの?」
「おら、食べてないよっ。おばさんちでは、ちゃんとだんごが入ってたよ!」
「ふーん? じゃあ、そのフタは何?」
「え? フタ?」
フタをよく見ると、だんごが全部くっついてました。
* * *
「あははは……。おもしろいねー。もう少し続かない?」
胡桃ちゃんにウケたようだ。
「そうだねぇ。長野の名物というとアレかな。どっこいしょの別パターンで行ってみるか」
* * *
主人公は、隣町のおばさんの家にまたお使いに行きました。
おばさんは、刻み野菜を小麦粉の皮で包んだ『おやき』というものをくれました。
主人公は「おやきー、おやきー」と繰り返して言いながら帰っていきます。
途中、「やきいもー……やきいもー」と声をあげる焼き芋屋とすれ違いました。
家に帰ると「おばあちゃん、ただいまっ! 『おやきーも』ちょうだいっ」
* * *
「……ちょっと苦しいけど、時間があまったら使わせてもらうね。偉文くん、ありがとー」
胡桃ちゃんは満足して帰っていった。
後日、胡桃ちゃんの妹の暦ちゃんが、僕にこう言った。
「クラブのみんなは『おやき』を知らなかったんだよ。だから、人形劇では『大判焼き』にしたんだよ」
「そうなんだ。じゃあまた今度、僕が暦ちゃんと胡桃ちゃんに『おやき』を買ってきてあげるよ」
「あたし、野沢菜のは嫌いなんだよ。あんこのにしてね」
食べたことがあるんだね。
11話の題は『おかしなだんごどっこいしょ』としていましたが、版権が残っているようなので変更しました。