第10話 おかしな一寸法師
「ねえねえ。偉文くん。次の人形劇で『一寸法師』のお話をやるんだけど」
僕の部屋に胡桃ちゃんが相談があるといってきた。
彼女は僕の従妹である。とっても元気な小学生だ。
放課後クラブでの人形劇で『一寸法師』を上演するにあたって、縮尺の問題が発覚したそうだ。
「お姫様とか鬼の人形に合わせて、小さい一寸法師を作ったの。でも人形が小さすぎて、観客の子供たちからほとんど見えないの」
「そりゃそうだろうね。一寸法師の大きさを他のキャラクターの半分とか三分の一ぐらいで作ればいいんじゃない?」
「うん。クラブの他の子もそう言ってたんだけど、暦が『これだと鬼の口に入らないんだよ』って」
「いつもながら的確なつっこみだね。でも、べつにそれでもいいと思うけどね。口に入るマネすればいいんだから」
「一寸法師の人形だけいつもの大きさで作って、他の役は衣装を着て劇にしようかっていう子もいたよ」
「衣装の用意が大変かな。ただ、それでも縮尺の問題が残るよ。いつもの人形劇の演台でやった方がいいと思うよ」
僕は大きな画用紙に人の顔を大きく描いた。
「一寸法師の大きさを2パターンにするんだ。大きい方の一寸法師を使う場合は、他のキャラクターはこういう感じの顔だけ出すんだ」
「あ、そっか。他のキャラクターの人形がでるところだけ、小さい人形を使うんだね」
「そうだね。あまり小さくしすぎない方がいい、鬼に食べられるシーンだけ大きい顔を使えばいいからね。食べられた後は、背景で大きな胃袋を描いた絵をだせばいいと思うよ」
僕は画用紙に胃袋のイメージと、中から一寸法師が針でつついている絵を描いた。
「ねえ、ストーリーは工夫できないかな。鬼に会う前でも活躍するシーンがあるといいんだけど」
「絵本によっては、大臣の服についた虫を追い払うとか、犬に乗ってお使いをするとかがあったと思うよ。後は小さい身体を生かして、家具の後ろに落ちてるものを見つけるとかね」
「暦は『忍者をやらせるんだよ』とか言ってた。一寸法師に忍者の格好をさせて面白いのかな」
「たぶん、他の屋敷に忍び込ませるってことだろうけど、話が変になるからやめさせてね。後はそうだなぁ、小さいハエたたきで蚊とかハエを退治するとか」
「ねえ、ハエたたきって何?」
「知らない? 布団たたきを三十センチ定規ぐらいの大きさにして、先が網になってるの」
「バドミントンのラケットみたいなの?」
「そうそう。それを小さくして柔らかくした感じ。それを使ってハエをたたき落とすの」
僕は定規を使って、空中でぶんと振った。
「おもしろそうだけど、観てる子達がわからないと思う」
「後は硯の上で墨をする係とか。姫が筆で字を書いている横で、一寸法師が墨汁を準備するんだよ」
「お習字みたいな感じね。あ、そっか。この頃は普通に墨と筆で字を書いてたんだ」
「あ、それとラストの打ち出の小槌だけど、『あと一回しか使えない』という設定にした方がいいと思うよ。何でも大きくできるのは変だし、『なぜ鬼が使わなかった』ってことにもなるから」
「うん、わかった。クラブのみんなと話してみるね。偉文くん、ありがとー」
胡桃ちゃんは元気に手を振って帰っていった。
後日、胡桃ちゃんに人形劇がどうだったかをきくと、なかなか好評だったようだ。
大きい方の一寸法師を出すとき、他のキャラクターの顔の絵も工夫されてて、目が動いたりしたそうだ。
一寸法師の人形は三パターン作り、中間の大きさを使う時、姫の上半身だけの人形も出したんだって。
この中間の一寸法師人形を使って、ラストでだんだん大きくなるのを表現したらしい。
みんな頑張って、いろいろな工夫をこらしているんだね。
人形劇の後、暦ちゃんが僕に話しかけてきた。
「一寸法師が生まれた村は大阪の淀川の下流なんだよ。川の上流にある京都までお椀の船で行くのは難しいんだよ。きっと一寸法師は他の船に密航したんだよ」
いや、密航とは限らないよ。ちゃんと頼んで乗せてもらったかもしれないし。