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7おっさん、高校に行く

不安と心配は相変わらず。



寝れば元の世界に戻ってるかな、なんて希望もあったがあっさり同じ場所(せかい)での明日はやってきた。



「ですよねー...」


こうなると夢だった、というオチは付けられそうにない。


額を抑えてブンブンと頭を振って余計な思考を追い払う。


ベッドの縁に座ると嫌でも壁に掛けられた制服が目に入った。


顔を顰めてから立ち上がり俺は渋々制服の掛かったハンガーを手に取った。


ドクンッと心臓が跳ねる。


同時にこれを着ていた頃の記憶が湧き上がってきた。



足元がグラつく。呼吸が浅くなっていくのを感じる。

昨日は別に大丈夫だったのに。



「ハッ」と無理やり息を吐き出し深呼吸する。


記憶を頭から追い出しながらそうしていると少しだけ落ち着いた。心臓が早鐘を打つのは仕方ない。



「別に...全部が全部昔と同じだとは限らないだろ」


静かに自分自身にそう言い聞かせて俺は勢いよく寝巻き替わりのスウェットを脱いだ。





俺の実家から高校までは徒歩20分程かかる。


歩いても行けるけど自転車の方が楽、といった中途半端な距離だ。


自転車通学すれば貴重な朝の睡眠時間をもう少し確保出来るのは分かっているが俺は『ある事情』から自転車通学を避けていたため徒歩通学だ。



久しぶりに見る制服姿の自分はスーツのときとは当たり前だが印象が全く違っていて新鮮だった。

新鮮すぎて着方間違ってないかと心配になるレベルで。




普段デスクワークで体を動かすこともほぼない為体力を考えて早めに家を出たものの思ったよりもカポカポ歩くことが出来る。


記憶はそのままだが体は身体機能含め高校のときのままなのか。

これは家にいたら絶対気づけなかった。



周囲の変化と同じくらい気になっていた疑問の一つ。


果たして俺は三十歳の体が某少年探偵アニメと同じように縮んだのか。それとも記憶のみが過去に飛ばされてしまったのか。


それはどうやら後者らしかった。

体の節々にあった痛みもないし肩も軽い。


まさに羽でも生えたかのような感覚だ。

俺はそのまま一歩強く踏み出し駆ける。

走ることすらいつぶりだろう。

瞬時に流れていく周りの景色。

風が頬を撫でる感覚。




そして段々と呼吸が乱れ汗が吹き出し


「...はぁ...はぁっ...」


割とすぐに立ち止まって膝に手を着く。


思えば高校のときも運動は苦手で基本引きこもってたわ。体力なんて高校の時の俺にあるわけが無い。




でも。



高校の時は運動が嫌いだった。

体育すらたまに適当な理由つけてサボっていたほど。



額の汗を腕で拭う。

拭いきれなかった汗が首から胸へと伝っていった。


気持ち悪い。だけど嫌で嫌で仕方なかったそれが今はどこか心地良かった。





段々と制服を着た集団が増えてきた。

その中に自分と同じ学校の制服も見えて心臓が跳ねる。



今更何ビビってんだ俺。


無意識に肩にかける鞄を掴む手に力が入った。




次第に校舎が見えてくるとそのドキドキはさらに加速する。


キラッキラした笑顔で歩く男女の大群が、思い思いのペースで行進していく。



俺は校門の影に隠れてもう一度足元から自分の装いを確認した。


朝ちゃんと確認したし大丈夫、だよな?

変なとこも見たところ無し。


いや、でも俺が気づいてないだけで他者から見たら三十歳 (おっさん)に戻ってる可能性も...



「お、かぐやぁー」


背後からそんなネッチャリ、耳をゾワゾワ撫でるような声がして振り返った。


いつだったか感じたことがある『嫌な気配』がして体が硬直した。



俺が振り向くより先に『そいつ』は俺の肩に馴れ馴れしく腕を回した。



「おはよー?」


至近距離で顔を確認する。


細い目が俺を射抜く。


赤茶に染められたパーマ髪が頬を撫でキツい香水の香りがした。


ゾワリとしか感覚が再び押し寄せる。



髪の色、香水にピアス、制服の着崩し。



こんな校則を突破しまくった男に近づきたくないのか俺の周りだけがエアポケットのように不自然に空く。



勘弁してくれ。


普通にしてれば縁なんて出来るわけが無い人種。

俺だって嫌煙するさ。


関わることどころか視界の隅に入れたくもない。



「...おはよう」


声が震えないようにするのが精一杯だった。

視線すら上げられない。



『そいつ』はポンポン肩を軽く叩いて首に腕を回したまま俺をブンブン振る。


体が倒れそうになるのをしっかり足を踏ん張って耐えた。




随分過去の世界、ほとんどの記憶はとっくに薄れているはずなのにこの男の名はすんなり思い出せた。



もちろん嫌な記憶として。


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