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4リアルじゃないと信じたい

しばらく立ち尽くして、それから俺は一部屋一部屋見て回り記憶との齟齬を確かめた。



家具の位置が違う。

新しく買ったはずの家電がない。

カーテンの色が違う。隣の新築がない。



確認すればするほどその違いが浮き彫りになっていく。


夢だと言われる方が説得力がある。


でも肌で感じる感覚がそれに疑問符を付ける。



とにかく状況を把握しようと俺はスタート地点である自室に戻った。



真っ先に目を引くのはハンガーでかけられた制服。


名前が刺繍された黒とグレーの中間の色のスクールパンツにきちんとシワの伸ばされた半袖の白のワイシャツ。


懐かしい。それは俺が高校のときの制服と酷似していた。


名前もご丁寧に『香耶(かぐや)(れん)』と自身の名が刺繍されている。


余計混乱してきた。

夢の癖に芸が細かすぎる。



とにかく増えた疑問符はひとまず置いておいて部屋を見渡した。


情報量が多そうな場所から見ていくか。


勉強机の上にはごちゃごちゃと小説や漫画、プリントに鞄と色々なものが所狭しと積まれていた。


その一つ一つを手に取っていくとずっとありえないと切り捨てていた『ある推測』を裏づけるようなアレコレが目に入った。



「これ...確率...?」


大学時代、就職試験で散々やってきたからこそすぐ分かった。


数学のプリントには確率を求める問題が並びそのプリントの一番上には所有者を表す署名が踊っている。


「一年C組...って...」


自分の字で書かれた名前の横に並んだそれは自分が高校一年のときに在籍していたクラスだ。


無意識に体が震え手を机に着いた。

冷や汗が背を伝う。



乱雑に机を本棚を、ベッド周りを、探せる場所は全て見る。


高校の教科書、体操服、高校時代ハマってた小説や漫画、中学のときのものまで出てきた。


そして相反して高校二年から三十になるまでに手にした物はどうしても見つからない。



「はは...まさかぁ」


一瞬現状を現実として認めてしまいそうになって乾いた笑いが漏れた。


しかし追い討ちをかけるようにベッドの上のデジタル時計が目に入った。


『20XX年/6/15』。


その西暦は今から十四年前のものだった。



「いやいやいやいや...」


ここの時計が狂ってるだけ。きっとそうだ。


ははーん。さてはみんなして俺を嵌めようとしてんな〜。たまにしか帰らないからってもう〜。


なんとか持ち直し若干ふらつく足で階段をゆっくり降り



「んあっ!?...ってーッ!!」


最後の数段を踏み外した。


そのままズルズル滑り落ちる。



「いったぁ...!」


静かな空間で一人悶絶する。


って...


「痛い...?」


ジンジンと痛む太ももを擦る。


痛い。ちゃんと痛い。


ってことは...


俺は太ももを擦るのとは反対の手で自分の頬を思いっきり引っ張った。



「いっふぁぁっ!」


強くしすぎた。

熱を帯び始めた頬を擦る。



痛覚もある夢、なんてさすがにない...よな。



いや、でも。


認めたくなくて俺は結論を出しそうになっては首を振りということを繰り返してやがてフラフラと立ち上がった。



足の向くまま洗面台に入る。



「マジか...」


顔を上げて鏡を見て、驚愕した。


ぺたぺたと顔を触って『それ』が自分の顔であることを再確認する。



「わっかっ」


クマもないし心做しか肌ツヤも良い。

髪は逆に長めだけど。


それに一番の変化は...


「おお...めっちゃバッチリ見えるやんけ」


ここ十年程でもはや体の一部のようになっていた眼鏡がない。



そう言えば寝起きで探そうと思ってから忘れてた。


いつもはぼやける視界が嫌で真っ先にかけるのに。


髪を摘んでみたり頬を両手で挟んでみたり、思いっきり変顔してみたりとひとしきり自分で遊んだ後我に返った。


感触、感覚全てがリアルすぎる。


もはやこれを夢と言い張るには限度がある。



「...嘘だろ?」


鏡に映る自分の顔は引き攣っていた。



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