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17私と契約して共犯者になってよ

「それで?」


互いの名を知れたことでようやく本題へと入る。


「さっき言ってたのはどういうことだ」


「そのままの意味」


ケーキを食べ終え、頬杖ついた彼女の視線が俺を捉える。体勢は気だるげなのに視線は鋭い。

どこか得体の知れない雰囲気に寒気がしピンと無意識に背筋が伸びた。



「私は私のための目的がある。これはそのためのステップ。ぶっちゃけついでの案件」


ぶっちゃけすぎる。それ言う必要あった?


「目的ってーーー」


「秘密」


「まだ最後まで言ってないやんけ...」


有無を言わさぬ圧力をかけられ俺は嘆息した。

気になってしょうがないがひとまず置いておくことにする。



「そもそも、君...与茂衣(よもい)の言ったことが正しいと仮定して、なんでその考えに至ったのか聞いていいか?順を追って」


いくらボイスレコーダーが見つかったところで部活で使ってる生徒もいるし『証拠』としては弱い。


それに彼女は『全てお見通し』という顔をして好き放題カマをかけるような言い方で物を言っていたし俺としては何を、どこまで勘づいているのかが気になって仕方がない。


それによっては今後の俺の計画も行動も大きく変わってくる。


与茂衣は窓の方に視線を移ししばらく外を眺めた後「まぁ、いいか」と呟いた。



「実は...」


ゴクリ...


「私には全てを見通す力がある」


「は?」


全てを...見通す...?


「そ、それってあれか...?超能力的なーー」


ゴクリ、と喉を鳴らす。

頭の中は疑問符で溢れていた。

早く情報追加を、と言う意を込めて与茂衣の目をじっと見る。



「まあ、嘘だけど」


そんな俺とは対照的に与茂衣は気だるげな態度でそう言葉を被せた。



「嘘なんかい!」


からかわれたと気づきつい大声になる。


言ってから自分が今いる場所を思い出してハッと周りを見る。案の定人の視線を集めていることに気がついて身を縮めた。



「ま、全部が全部嘘って訳でもないけどね」


言い訳するように与茂衣がそう付け足し、俺は首を捻る。



そんな表情の俺を見てか与茂衣が顎に当てていた手を下ろして少し身を乗り出した。


「私、天才なの」


一瞬、開いた口が塞がらなかった。

それ程に彼女の発言は唐突で、理解が追いつかないものだった。


「それ...自分で言う?」


「私、嘘とか誤魔化しとか嫌い」


「それはいい心がけだと思うけど...って、なんで今それが関係ある?まさか、また俺をからかおうとしてたりする?」


『まあ、嘘だけど』とまた返って来るのではないかを変に意識して身を固くしたが


「所々汚れた制服、痣の付いた腕。それを見ればキミが『良くないこと』に巻き込まれてるのは分かる。それに陰鬱そうな雰囲気、入学式の写真と比較すると色々見た目を変えてるよね。イメチェン?」


つらつらと与茂衣は種明かしを始めた。


なんで学校に来ていない与茂衣が知ってるんだ。

入学式の時も見た目を少し変えてからも彼女には会っていないのに。


「お節介担任が家に持ってきた来てた名簿と写真見たから」


声に出していないのに与茂衣は俺の内心の疑問に答えた。

あまりの正確さとタイミングの良さに背筋から脳天に駆けるように痺れが走る。


「キミの現状が分かれば後は推測するのは容易い。...キミ、『そいつら』を摘発したいんだね?」


どうするどうするどうする。


頭の中ではエマージェンシーコールが鳴り響き、冷や汗が頬を伝う。


『チガウヨ。ソンナコトナイヨ!』と否定しても信じてもらえないだろう。

そう確信出来るほど与茂衣は自信を持った物言いだった。


どう出るべきか。

出方によっては今後の計画に大きく変化が生じる。


「超能力は使えないけど私、頭はいいの。推測は得意分野。まあ、それを生かす場面が少ないのは残念だけど」


「...なら、どうして学校に来ないんだ?ちゃんと通えばその力を使う場面は多くなるだろ」


俺の頭の中では毎日ちゃんと学校に通って学級委員でもやってあらゆる策で他のクラスを出し抜く与茂衣の姿が浮かびーーーかぶりを振った。


似合わなすぎる。

いや、こういうことに似合うとか似合わないとか、そういうことを思うこと自体よろしくないとは重々承知してるけれど。瞬間的にそう思ってしまうくらい違和感があった。



「似合わないでしょ?」


俺の考えを見透かしたのか、それかただ単にタイミングが良かっただけかもしれないが与茂衣がそう言った。


なんて答えるべきかどうか逡巡していると「私のことはいいでしょ」と与茂衣が無理矢理話題を切った。


先程までと同じ淡々とした口調だが心做しか先程までより冷たく感じられたのは気のせいか。


「キミはいじめっ子を見返したい。私は私の目的のためにキミを利用したい。利害は一致してると思わない?」


「い、いじめられてなんてないし!」と無駄に虚勢を張ってみたが与茂衣はそれを完璧スルーし、立ち上がって俺に手を差し伸べた。


「キミの共犯者になってあげる」


『さあ、この手を掴め』とさらに突き出された手を俺はじっと見ていた。


俺が迂闊だっただけかもしれないが、それでもここまで正確に俺の計画を言い当てた程だ。

頭が切れるのは確かだろう。


しかし、この手を言われるがままに取っていいのか?


これは俺の復讐だ。

第一ここで助けを求めたところでどうする。明け透けにあれこれ話してその後こいつが俺の弱みに付け込まないという保証は?


どうやってもメリットとデメリットが釣り合わない。


人の良心には裏がある。

それが俺の人生で得た校訓なのだ。



「俺は別に...誰かの助けなんて必要としてない」


小さいながらもハッキリとそう伝えた。



「......」



返事が返ってこない。


まさか怒ったり?



しかし、恐る恐る顔をあげると与茂衣は予想に反してにんまりと今日一番の笑みを浮かべていた。



「いいね、そうこなくっちゃ」



『いいね』?


何故そんな肯定の言葉が飛び出したのか理解しかねていると



「じゃあ試験してよ」


「試験...?」


「そ。明日明後日休みだから月曜。私は勝手にやるからそれでキミの『役に立った』と思ったら手を組もう。それでオーケー?」


「オーケーも何も、だから俺は誰の助けも...」


「キミにはデメリットはない、そうでしょ?私が勝手にやるだけだから。もちろん失敗はしないので」


どっかのドクターみたいな決めゼリフを言いながら一瞬与茂衣の瞳が怪しく光った気がした。


確かに与茂衣の言い分はごもっともかもしれないがどう考えても怪しすぎる。


しかしここでまた押し退けたところで与茂衣はあの手この手で擦り寄って来るだろう。それに俺が了承しようがしまいが勝手に動いてしまいそうだ。


俺にデメリットはない。


そうだろ?


頭の中にそんな声が聞こえた気がした。


仮に上手く行けばあいつらを早々と追い払えるかもしれない。

一日でも早くこの毎日から逃れたいのだ。


「わかった」


了承すると与茂衣はウンウンと満足気に頷いてようやく座った。


「よろしく」


そう言って差し伸べられた手を俺は渋々ながら今度こそ掴んだ。


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