表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/90

14未知との遭遇的な何か

「...はぁ...はぁ......」


痛い。


苦しい。


屈服した方が楽になれる。



そんな誘惑が俺を襲う。



「見た目変えてイキっちゃった?陽キャになれたつもり?」


またあの気持ち悪い笑い声が響く。




これでここに連れ込まれるのは何度目だろう。



過去にタイムリープしてはや一週間。


曽屋はほぼ毎日のように絡んできた。


時間帯も疎らで休み時間や昼休みに分かりやすく人前で接点を持ってくれる。そうしてくれるようにさりげなく誘導もしていたからな。



俺が無理やり連れていかれる現場はクラスメイトほぼ全員が認知しているだろう。



だけど具体的に動いてくれる人はなし、と。



まあ、これは仕方ない。

この学校でも珍しい部類に入る不良グループに目をつけられるのは誰だって勘弁願いたいだろう。




少し期待してたりもしたんだけどな。


もしかしたら認知してくれれば正義感で手を差し伸べてくれる人がいるのではないかと。



さすがに一朝一夕じゃ周りの認識や距離感は変わらないよな。




「かね...なんて、ない...から」



もう一度そう言うと背中を蹴られた。


「うグッ...!」


「だからぁ、持って来いって、な?」


俺は念の為財布や携帯、その他の大切なものを全て自宅に置いて来ている。


持って来れば失うと分かっているからだ。



絶対...絶対言うことなんて聞くものか!


弱ってしまいそうな心を鼓舞する。



蹴られる度に古傷が痛んだ。


繰り返される犯罪スレスレの行為。

それに今は耐えるしかない。


服の内側に仕込んだ『それ』を肌で感じながらとにかく自分を励まし続けて。



俺は体を丸めた。





センパイを連れてくる。


暴行にも飽きたのか俺が命令に応じないことにいよいよ痺れを切らした曽屋はそう去り際に言った。



センパイ。


そう聞いて思い浮かんだのは卑屈な笑みを浮かべた金髪野郎だった。



そいつにされたーー今日までの暴行が可愛く見えるほどの事に身震いした。



タイムリミット、だ。



一度経験したこととはいえ、心が壊れる自信があった。


それくらいトラウマになった出来事だ。




今こそ、これまで耐えてきた成果を試すとき。




そう考えひとまず必要な物を取りに行こうと教室に戻った。



しかし、後から思えばこの時俺は教室に向かうべきではなかった。





日もだいぶ傾き部活動生の元気な声やがっきの音も聞こえない。


担任、まだ残ってるといいけど。


やはる気持ちを抑え切れず痛む体を引きずって勢いよく教室後方の扉を開けた。


「え...」


真っ先に目に入ったのは後ろ姿の女子生徒。


こんな時間だし誰もいないものだと思っていただけに面食らう。



勢いよく開いた扉の音は聞こえているだろうがその女子生徒は窓の外に顔を向けたままでピクリとも反応しなかった。



この一週間でクラスメイトの顔くらいは思い出した。記憶になかった分も埋めた。

なのに過去の記憶からも今の記憶からもその女子生徒の姿は見つからない。


長い髪が風に揺れそよそよと揺らいだ。片手で女子生徒が髪を抑える。


ただそれだけなのにやけに絵になる光景だ。



だけど『それだけ』。


見た目高校生とはいえ中身三十のおっさんが女子高生にどうこう思うのは倫理的にアウトだし俺の計画には不必要な要素だ。


面倒になりそうなことは無視するに限る。



だが


「あの...」


俺はそう声をかけざる負えなかった。



女子生徒がゆっくりと振り返る。



無言で『なに?』と言いたげな視線を向けてきた。



可愛い子だなと思った。


一目で目を引くような美人というわけではないけど整った顔と長くさらさらした髪が目を引く。


パッと心に残るというよりは後々までジワジワと心の隅に住み着くような感じの魅力を備えている。


ますます俺とは無縁な人種だ。



「そこ、俺の席なんだけど...」


こういう我が物顔で澄ましているところなんか特に。

しかも座っているのが椅子ではなく机の上って。



女子生徒は俺の問いかけにすぐには答えず、宙を見て何かを考えるような仕草をした。


「そう」


そして視線を窓の外に戻した。



...って。


「いや、だからさ......」


普通そう言われたら退かない?


俺の言い方が悪かったかな。


女子生徒を無視して強行突破しようにも鞄は彼女のすぐ足元にある。

あそこに手を伸ばせば、見る角度によっては痴漢と間違われてもおかしくないくらいの際どい位置だ。


「ねぇ、あれは何?」


困惑する俺を他所に女子生徒は窓の外を指さした。


窓に恐る恐る近づいてその指の先を見ると校舎の向こう側から煙が立ち上っているのが見えた。


「え、火事!?」


驚きつつ目を凝らす。


煙はどんどん大きくなっているような気がした。



「行ってみよう」


「は?」


机から軽やかに降りて女子生徒は俺の方を向いた。


頭一つ小さい女子生徒は強引に俺の袖を掴んで引っ張る。


「ちょっ、ちょっと待ってって!!」


どこにこんな力があるのだろうと不思議になるくらい力強く引かれ俺はその場から連れ去られた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ