10ただの高校生
「はい、では来週のクラスマッチについてですがーーー」
六限目のホームルームの時間、坊主のクラス委員長が教卓に立ち声を張る。
結局この日は記憶との齟齬を確かめることに全力を注ぐことは出来ずにここまで来てしまった。
誰だぁー?高一レベルの勉強くらいよゆーよゆーなんて軽く考えてたやつー。
そんなこと無かったですマジ無理勉強怖い。
国語数学くらいならまだ良し。
さすがに今が二、三年の時期だったらその難解さに頭を抱え早々とボイコットしてただろうが幸い基礎の基礎をするといった授業だった。六月という入学してまだそんなに時間も経っていないという時期だったのも幸いした。
だが化学、英語。てめぇらは絶交だ!
何化学式って。スイへーリーベーどこ行った?
なに勝手に仲良くおてて繋いでガッチャンコしてんの?
無駄に長くすりゃいいってことも無くない?
それに英語。君は全く初対面でハードモードでやってくるな。こちとら長い間君とはおさらばしてたのだよ?
とっくにお別れして早々と記憶の箱から追い出したのだよ?
それなのに単語覚えてる前提で話を進めてややこしくしてくのやめてくんない?
なに寂しかったの?好きな人虐めたいタイプ?
マジで分かり合えないわー。
ため息が漏れる。
そういえば現役のときから理科と英語は学年の下から数えた方が順位早かったなぁ。
文系選んだから化学なんてやったのは高一までだし。そこから考えれば十四年はしてなかったことになるのか。そりゃ覚えてないはずだ。
『どうせこの先、職に生かす機会は無くなるのになんだこんなことしないといけないんだよォ』と勉強嫌いあるあるの考えで避けてきたし。
これからまた、帰れる未透視が立つまでは向き合わないといけないのか...
社会人になってから『学生のときに戻りたいなー』なんて思う瞬間もあったが実際に戻ってみるとそんなことなかった。
強制的集団行動、時間割、仲間意識...etc。
むしろ一人で行動するのが当たり前、自由がわりかし聞く社会人よりハードモードじゃね?
視線を教卓に戻すと一通り説明を終えて黒板に競技名を書き終わった委員長がこちらに向き直るタイミングだった。
「じゃあ参加競技決めていきたいと思いまーす。参加したい競技の下に自分の名前書いてってくださーい」
嫌なことはひとまず頭の隅に追いやる。
クラスマッチ...ねぇ。
確か毎回サッカーに出てたっけ。
消去法で。
黒板に並んでいるのは『サッカー』『バスケ』『テニス』『ソフトボール』『バレーボール』の五種目。
少数精鋭、狭いコートでのものは一人一人に求められる役割が増すし俺には厳しい。
つまり俺団体競技向いてない。
本音を言うとサボりたかったがあまり角を立てるのも良くないヘタレな俺は毎年一番不人気な競技を選択していた。
コートも一つしか作れないし参加人数も一番多いから経験者や運動が得意な奴らの独壇場になるから『それ以外』に向く期待も減る。
それを良いことにいつも相手先のゴールに向かって走るチームメイトをディフェンスラインから眺めていた。ボーッと突っ立ってるとなんか思われそうだから足を開いて踏ん張って『ちゃんと守ってますよー』感出しながら。
結局ボールに触れた記憶ないけど。
昔を思い出している間に黒板はクラスメイトの名前で埋まっていく。
黒板前の人も捌けてきたところで俺は腰を浮かせた。
ま、どうせどれ選んでも役に立てそうにないしサッカーでいっか。
波風は立てずにいるに限る。
変に目をつけられても面倒だし。
※
「おい、ちょっとツラ貸せよ」
どうしてこうなった。